〜 第十一章 〜
暇人
ここは東方都市の宿屋にある仕事斡旋所。次の仕事を選ぶ芹雄……えっ?前の話と繋がってないって?
仕様が無いじゃん。何も起きなかったんだから。
往復でかかった日数と深森の町での一泊、計17日の間に依頼も多少変わっていた。宅配の仕事も今度は違う町だが1つある。
芹雄:「う〜ん……んんんん……むむむむ〜?」
依頼のリストを目の前にして腕を組み、奇妙な唸り声を上げて悩んでいる芹雄。
簡単ですぐに終わる仕事、「輸送系」は宅配の1つだけで、他は「救出」「探索」「退治」という、迷宮が関連する危険な仕事しかない。
いや、芹雄の強さから考えれば苦ではない。仲間もすでに知っているし特に問題は無いのだが…言ってしまえばタルいのである。
あと、今悩んでるのはそれだけではなかった。まだ『九尾のキツネ』の「討伐」依頼が残っていたのである。報酬はかなり良く、1日もかからずに終わらせる事が出来るので、芹雄はやりたいと思っている。
そこで問題が…仲間がどう思うかである。普通の雑魚程度ならまだしも、相手は強大な化物。一撃食らうと間違いなく即死。おまけに魔法攻撃で配置に関係無く攻撃して来るので危険極まりない。
一応相談してみるか…?と思ったが、反対されるのは目に見えてるので止しておく。かといって、他の依頼は時間掛かるし、宅配なんてやったら逆に損するし…
藍玲:「芹サン、どうしたアルか?」
ファンチ-ヌ:「引き受ける仕事どれにするか悩んでるの?」
芹雄:「もぇ…?」
唸ってた時に話し掛けられたので、なんかやたらと気の抜けたようなワケの判らない返事をしてしまう。いや、「萌」ってのもどうかと思うが…
ファンチ-ヌ:「どれどれ…?「宅配」に「救出」、「探索」、「討伐」に「退治」…か。」
藍玲:「ひゃぁ。宅配以外はチョト厳しいかもネ。宅配も移動費用考えるとやっぱり損するアルね。」
ファンチ-ヌ:「どうするの?芹雄がいるからもう何にでも挑戦するわよ。」
芹雄:「……マジで?」
予想外の言葉が出たので少し吃驚する。(オイオイ、討伐いけるんちゃうん?)とか思うが、ふと思い留まる。
そうか…九尾のキツネとはどんなのかが解かってないんだな…まぁ、無理もないか。むしろあの強さで戦った事があるのなら逆に怖ぇわ。
芹雄:「いンや、今回はパスだな。あんまり良くねェからちょっと待ってみることにする。」
ファンチ-ヌ:「そう…ん〜、じゃぁどうするの?」
芹雄:「依頼も果たし…戦闘にも勝った。その分経験値が溜まってる筈だ。よって、訓練してもらいます!」
藍玲:「え"え"〜!!訓練アルか!?」
物凄い驚き方をする藍玲であった。
藍玲:「別に良いアルよ。」
ケロリ。と言い放つ藍玲。
ファンチ-ヌ:「でも芹雄の能力限界だよね?どうするの?」
芹雄:「うむ!藍玲、ナイスなボケを有り難う。ファンチーヌ、良い質問だ。
君達が修行に明け暮れている時、俺は… 「キキッ」と桜玉吉の漫画に出てくる「ちょりそ」の真似で笑う芹雄。
<セリオス>:[やかましい]
ファンチ-ヌ:「…誰?」
芹雄:「まぁ、とにかく。これから2週間筋力の訓練をしてくれ。俺は町の中で過ごしてるから二人はみっちり訓練して強くなってくれ。判ったかね?藍玲曹長。」
藍玲:「ハッ!了解でありマス!芹少佐!…ファン、我々は偵察が任務だ!」
ファンチ-ヌ:「違うでしょ…もぅ、何やってんだか…どこから拾ってくんのよ、そんなネタ…じゃ、私達は訓練所に行くわ。ではまた後日…」
芹雄:「うむ。では俺も部屋を取る事にしよう。」
藍玲:「再見〜!芹さ〜ん!あ、そうそう。ファン。」
ファンチ-ヌ:「なに?」
藍玲:「あそこでは、「芹少佐だって修行で出世したんだ…私だって…!」って言わなきゃダメダメアルよ。」
《ゴシッ!》…プシュ〜… フラフラになった藍玲を担いで歩いていくファンチーヌ。何故こういう時にパワフルになりますかね。藍玲がふと顔を芹雄に向けてこう言った。
藍玲:「芹少佐ぁ〜…助けてくださ〜い…減速できませ〜ん…芹少佐ぁ〜…」
その言葉を聞いて、芹雄は心の中で優しい言葉をかけて見送るのだった。
芹雄:(すまない…ワタシにはファンチーヌに特攻する度胸は付いていない…だが、犬死ではないぞ!)
そうして、2人の訓練が始まるのだった…
芹雄:(うむ…よかよか。頑張っとるのぅ…でも何の訓練だろうか?ん〜…………う!?) 案内板には「魅力」と書いてあった。よりにもよって、戦闘に全く関係のない魅力の訓練をしておったのだ!このカワイコちゃん(死語)達は!
あまりの驚きに変な声をあげてしまう。
藍玲:「あれ?芹さん。どうしたアルか?」
ファンチ-ヌ:「あら、芹雄じゃない…ひょっとして応援しに来てくれたの?」
芹雄:「キミタチハ、ナゼコンナトコロニイルノカナ?」
怒りの為、言葉と体が震え、首を傾げるとやり過ぎな程傾く。顔も段々引き攣ってきた。
ファンチ-ヌ:「何故って…訓練してるからここにいるんだけど?…ちょっと、芹雄…大丈夫?なんかおかしいわよ?しっかりして!呆けるにはまだ早いわよ!?」
その言い方はどうかと思います。ファンチーヌさん…
藍玲:「アハハ。変なこと言うアルね。寝惚けてるアルか?芹サンが「訓練しろ」って言ったアルよ〜。」
どうやら本当に解かってない様ですな…このマドモアゼ〜ル達は!
芹雄:「わァたしの、記ィ憶がたァしかならばァ〜…」
声の震えも遂に限界突破で劇団四季に居る有名役者のような口調に。
藍玲:「うん?何アルか?」
芹雄:俺は「筋力の訓練して強くなれ」と言った筈である!」
ファンチ-ヌ:「……………………あ。そうだった。」
藍玲:「アイヤぁ?そだっけ。忘れた。」
≪ガ―――――――――――ソ!!≫
芹雄:「…は…はは…俺ってなんなんだ…?」
ファンチ-ヌ:「まぁいいじゃないの。連れの華の美しさに磨きがかかるのよ。リーダーとして嬉しい限りじゃない。」
藍玲:「そうアルよ、芹サン。嬉しい時は素直に喜ぶヨロシ。」
芹雄:「フへっ……」
…と、こんな具合で悩んでいるのであった。
寝とく。誰かさんの様に堕落生活でもしとくよ。」
少し遠かったが、良い音が聞こえた。藍玲の頭からは白煙が…
ナイスツッコミです!ファン姉さん!
2人の修行が始まってから3日。芹雄はというと…やはり二人が心配で様子を見に
行く事もなく、本気で寝て過ごしてました。しかし、いい加減退屈であった為、少し町の中を歩き回ることにした。
暫く町を探索しながら歩くと、訓練所を発見した。二人の修行を影ながら応援することに。身を潜めながら訓練所に侵入。二人を探す。そして発見。二人とも熱心に修行していた。
ウホッ!?
そして中に入り、つかつかと二人の元に歩いて行った。やさし〜い笑顔で。近付く芹雄に気付く藍玲。
(仲間を気遣って仕事を選び…仲間を訓練をさせたいが為に俺だけ無駄な2週間を過ごし…挙句の果てに言った言葉は忘れられて
…訓練は始まったら変更できず…そして仲間は強くならない………)
(なんかもう何もかもがどうでもよくなりました…)
心底どうでもいいや、って感じでにやけて拗ねる芹雄。
ファンチ-ヌ:「はい、そこ!嫌なすね方しなーい!!」
藍玲:「せーりーおーすーさ〜ん!」
ガクガクと芹雄の体を揺らす藍玲。玩具の人形のように首がガックンガックン傾く。
芹雄は暫く揺らされた後、藍玲を制して揺らすのを止めさせてすっ、と立ち上がる。
芹雄:「そうだな〜。期待して待つかぁ〜。待つしかないしね。」(どうせ取り消しは出来ねェんだ)「じゃぁ、俺帰るよ。残りの訓練頑張って。」
(ダンジョンでも行って雑魚相手に晴らしてくっかなぁ…しかし、それはなんも特しねェしなぁ。かといって人襲ったら悪に染まる上指名手配されるし… なんかないかなぁ……う〜ん…う〜………ん?あれは……)
芹雄が見つけたのは変態ルックで変態の達人…ではなく忍の達人の栗原さんだ。
さすがに普通の服くらい着ているであろうと思ったが、盗んだ後とかわらず下着1枚と頭巾のみ。
気に入ったのかどうかは解らんが、どう見ても変態さんである。だから誰も挑戦せず、世代が代わってないのであろうか?
(…いや、なんか…さっきから分析しながら観察してるけど…軽蔑・敬遠されるどころか、握手求められたり色んな人と会話してたり……なんか…まるで…いや、まんま
この町の人気者さんなのか!?う〜ん…複雑な心境だ…でもま、なんかスッキリしたワ。おもろいモンが見れた。)
晴れた顔で町の散策を再開。日が沈むまでぶらついた後、宿に帰った。
―――――この後、2人の訓練が終わるまで見事な暇人っぷりで2週間を過ごし切った芹雄だった…
次に続くッッツ!!
了