ルナティックドーン 前途への道標
〜剣士【芹雄】の冒険記〜

〜 第十七章 〜

修行



 日紫国・東方都市―――暗黒教会の探索を終えた芹雄一行は無事、街に戻った。

芹雄:「うむ。なんとか今日中に戻ってくる事が出来たな。」

奈香:「そんなに動き回らなかったし、休憩も殆ど取りませんでしたしね。普通に比べて倍は早かったんじゃないですか?」

ファンチ-ヌ:「ふぅ…街に戻って安心したからかな…なんか急に疲れが出て来たわね。」

藍玲:「おなか空いたアル〜…」

芹雄:「相変わらずだな…藍玲は…ま、儲けは無かったが探索が無事終了ってことで打上で飯食いに行くか!」

藍玲:「おお〜う!?だーいさーんせーい!!行くアル!絶っっっ対行くアル!『ごめん、やっぱ嘘』って言っても行くアル!美味い物モリモリ食いまくるアル〜!」

奈香:「そうですね。やはりこういう時は美味しい物を食べて気を良くするに限りますね。」

ファンチ-ヌ:「よぉ〜っし、そうと決まればすぐに行くわよ!」

藍玲:「やっぱり、行くならあそこの店あるね!?」

奈香:「芹雄さんが教えてくれた…?」

ファンチ-ヌ:「決まったわね…じゃ、Let's -La- Go!」

芹雄:「れ…『レッツ・ラ・ゴー』って………死語?」

 ≪タタタタタタ………≫
芹雄の言葉が届く前に、3人は既に駆け出していた…建国記念日に食べに行った「料理の美味い店」に向かって。

芹雄:「………全然元気じゃん。」

誰に言うわけでも無く、一人でツッコミを入れる芹雄。当然≪ビシィッ!≫っという手のツッコミも忘れない。空を切ったが。


 東方都市には二つの名のある料理屋がある。 1つは【正方形】。かなり食材に金をかけており、とにかく凄まじく豪華。世界にチェーン店を持つほどの規模でその名の広さは正に世界一。東方都市が本舗。 ジャンルも豊富で時が経つにつれてメニューが増えてくる。食材は様々なルートでいつでも入ってくるので1日中やっている。 ただし、メニューは豊富で食材は豪華だが、味は普通。不味くは無いが…というレベル。でも豪華だし1日中やってるので利用者はやはり多い。ちなみに、レンシアに行っても英語読みはしない
もう1つは【日紫ふぁるこむ】。この街で最も美味い料理を作るという、一部の者にかなり有名なレストランなのだ。 料理の技術が素晴らしく、心のこもった美味しい料理を出してくれる。食材を極限まで活かし、完璧な出来あがりの料理の数々は魅力的。 しかもほぼ確実におまけ要素が入っていて、客を更に満足させてくれる。美味い飯と美味い酒。そして店内の楽しい雰囲気も来客者の人気の1つ。遅くまで営業してるので冒険者にはとてもありがたい。
はい、そこ!「強引」とか言わない!

 ――――と、いうわけで【日紫ふぁるこむ】に入った芹雄一行。店に入って30分ほど……
既に全員出来あがっていた。その後もまだ宴会(?)は続いた……

藍玲:「むほ―――!!美味い!美味いアルー!あ、すいませーん!追加するアルー!」

奈香:「あはははははははははははは!藍玲〜、まだ食べるのぉ〜?そろそろ20人前に達するわよ〜。」

ファンチ-ヌ:「うぅ…私だって芹雄の役に立てるように頑張ってるのよ!?それなのに…うっ、うぅ…ひくっ。うえぇぇ〜ん。」

芹雄:「あぁ〜っ!?そこのウェイトレスさん!なかなかか〜わい〜いジャ〜ン?今夜俺としっぽりがはは?おひょっ?ねぇ!あぁん…行かないでぇ〜ン。」

<セリオス>:[無茶苦茶だな…大丈夫なんだろうか?このまま放っておいて…]

 でも放っておく事にした。
結局、深夜まで騒いでお開き。フラフラになりながらも全員で宿に帰った。

 

≪がちゃっ…キィ…≫

マスター:「ん……?おう、芹雄か。お帰り。結構遅くまで頑張ったな?」

芹雄:「おーう、マスター!今帰ったにょろろ〜ん。」

藍玲:「あ〜…も〜…うがぁぁぁぁぁぁ!眠いアル―!早く部屋まで運ぶヨロシ!」

マスター:「? なんだ…酔っ払ってるのか?全員。」

芹雄:「あ〜、ちょっと飯食うついでに酒も飲んじゃってさ〜。これがまた美ン味い酒でよ〜。何杯もいっちまった!」

奈香:「あはははははははははははは!てんじょーがぐにゃぐにゃー。あはははははははははは。」

ファンチ-ヌ:「ねぇ〜…芹雄ぅ〜…早くお部屋に行・こ?」

マスター:「こりゃいかんな…自分の部屋も判らんだろうな。仕方ない…連れて行くか。」

 そして4人を部屋に連れて行く。一番近かった芹雄の部屋の中に入り、布団を用意。寝る用意は出来た、と伝えようとしたが…
≪ばふっ…≫

芹雄:「うい〜…マスター、サンキュー…おやすみー。」

 既に芹雄が布団の上に倒れていた。マスターは呆れているのか諦めているのか溜息だけついた。

マスター:「ふぅ…さ、嬢ちゃんたちも自分の部屋に戻…」

≪ばふばふドフッ!

芹雄:「うごっ…ZZZ…」

いつの間にか防具を外した3人が芹雄の横とに倒れ込んだ。ちょっと唸ったが、眠ったようだ。

三人:「すー…………すー…………」

マスター:「おいおい…う〜ん……ま、いいか。特に問題は無いだろうし。」

 そして4人の上に掛け布団をかけてからマスターは部屋を出て行った。


 ≪チュン…チュン…チチチチ…≫

芹雄:(……? ………朝か…)

 隙間から漏れた光と、小鳥の囀りで目を覚ます芹雄。起き上がろうとする…が、体が動かない。

芹雄:(んっ……うん? なんか体が重いなぁ…二日酔い?いや…気分が悪い訳じゃないし…)

≪モゾ…≫『……むにゃむにゃむにゃ……』

芹雄:(…うん?)

藍玲:「くー………すー………」

芹雄:(!?!?!?!?!?!? ら、藍玲!?なんで俺の布団に…?)

 ≪きゅっ…≫『すー…………すー…………』
 ≪ドキリ…≫

 逆の腕から、袖を掴まれ引っ張られる感触が…芹雄は恐る恐る、首を回しその方向を見た。

奈香:「んん…………すぅ…………」

芹雄:(な……奈香まで!?何でここに…いや、何やったんだ!?俺!………はっ!)

 ふいに、胸から下にかけて布団とは思えない重さを感じ、顎を引き、自分に乗ってる物体に目を向ける……どう考えても異常に盛上がった布団…いや、それ以前に金髪の頭が見えてる

芹雄:(ファンチーヌ………だよな………)

 体を起こせない理由が判った。右腕を藍玲が、左腕を奈香がそれぞれしがみつき、腕を枕にしている。ファンチーヌは芹雄を布団代わりに、体の上で寝ていた。

芹雄:(…この状況は一体…? え〜と……昨日はダンジョン行って、帰ってきた後、飯食いに行って、美味い酒飲んで…………………その後は?)

 どうやら酒が入った後の記憶が無いらしい。

芹雄:(ヤっちまったのか…俺?いや…まさか…そんな事する仲でも無いだろうし…まさか強引に!?)

 ちょっと…いや、かなり不安になったので仲間を見る……ちゃんと服は着ている。『やってない』ことを確信し、安堵する。

芹雄:(さて…どうするかな…起こすのも可哀相だし、自然に起きるまで待つか…腕の感覚無くなってるけど…)

 一時間くらい経ったであろうか―――――ようやく一人目を覚ました。奈香だ。

奈香:「ぅ、ん……んん………?」

芹雄:「おはよう。」

奈香:「あぁ、はい。おはようござ……って、え…えぇっ!?…芹雄さん?……なんで私、芹雄さんと一緒に寝てるの?…そんな、芹雄さん…気が早いですよ! こう言う関係になるのはですね、出会ってまだ間も無いんですから、もっとお互いに知った後で……」

芹雄:「違うって。」

奈香:「えっ?あ…そうですよね…はは…ちょっと動転しちゃいました。あ、でもこんなところ他の二人に見られたら…」

芹雄:「…他の二人も一緒にいるよ…まだ寝てる。」

奈香:「えっ?」

 体を起こし、状況確認する奈香。芹雄の言う通り、藍玲とファンチーヌ(の頭)が確認できた。普通に話してた気がするんだが、起きる様子は無い。

奈香:「や、やだ!芹雄さん……」

芹雄:「俺もびっくりしたよ…」

奈香「3人同時攻略(?)なんて…そんな事する人だったんですね!?」

芹雄「そうなんだ、腕も腰も動かないから困った……って違うわっ!何でやねん!」

藍玲:「ん〜〜〜?あ〜二人ともオハヨーアル〜、どうしたアルか?」

ファンチ-ヌ:「ぅ……朝?ちょっと寝足りない感じがする…あぁ、みんな。おはよ。」

芹雄:「おぅ…おはよう。」

奈香:「え…?あ、あの…二人とも。何で普通に挨拶してるんですか?ここはご自分の部屋じゃないですよ…?」

ファンチ-ヌ:「ん?…あ〜、奈香は仲間と旅するのは初めてか…ま、私もこのメンバーが初めてなんだけどね…それはいいとして、 この世界じゃ冒険者なんて数え切れないほどいるんだから、宿で人数分の部屋が取れないことなんて結構あることよ?そういう場合は一緒に寝る事があるのよ。この宿は特別ね。マスターと芹雄、仲がいいから。」

芹雄:「寝起きの割に凄い喋るね、お前。しかも正確に…」

奈香:「そうなんですか…」

藍玲:「でも、今回みたいに密着する事は初めてだけどネ〜。」

 この会話をしてる時も藍玲とファンチーヌは上体は起こしているものの、寝てた場所から少しも動いてない。

芹雄:「いや…なんで離れないわけ?いい加減起きたいんだけど…」

ファンチ-ヌ:「そう?しょうがないわね…私達も起きるとしますか。」

藍玲:「照れなくてもいいのに…」

芹雄:「ああ!うっせ!とっとと行っちまえ!」

奈香:「否定はしないんですね?」

芹雄:「うがぁぁぁぁぁぁ!!」

三人:「あははははっ。」

芹雄:「芹雄は腕の痺れが取れた後、下に降りて行ってマスターに挨拶する。

 

芹雄:「おはよう…マスター。」

マスター:「よぅ、おはようさん。昨夜はお楽しみだったな?

芹雄:「あのな…寝てただけだっつーの…」

マスター:「まぁ、そうだろうな。ベロンベロンに酔っ払って、お前の部屋に入ったらすぐ寝たからな…全員。」

芹雄:「なんだ…?マスターが連れて行ってくれたのか。」

マスター:「あぁ。でも他の嬢ちゃん達も部屋に案内しようとしたんだが、その前に寝ちまったからそのままにしといた。」

芹雄:「そうか…まぁ礼は行っとくよ。有難う。」

マスター:「あぁ、別にいいさ。そら、飯の準備しといてやるから顔洗って来な。」

芹雄:「お…っ、サンキュー。」

 布巾を渡され、洗顔しに行く。サッパリしたあと、酒場に行って適当なテーブルに陣取る。

朝食が来るのを待ってると、3人がやって来て挨拶を交わしつつ同じテーブルに着いた。そして次いで朝食を持ってくる女将。

女将:「あら?全員来てたのね。ごめんなさい、今から用意するからちょっと待っててね。」

 女将は一先ず芹雄の分の朝食を卓に置いた後、すぐに厨房へと戻って行った。
暫く会話をしてるとマスターと女将が3人分の朝食を持って来てくれた。

女将:「はい、お待たせしました―――って、あら?芹雄さん、まだ箸もつけてなかったの?」

芹雄:「あぁ、まぁね。仲間と一緒に食べたかったから。」

マスター:「おいおい…待つのはいいが、冷めてるじゃねぇか。温め直すか?」

芹雄:「あ!いいよ。ここの料理は冷めても美味いだろうから。温かい方が美味いに決まってるがね。」

女将:「う〜ん…じゃぁ、そのままでいいのね?」

芹雄:「あぁ。ありがとう。」

女将:「はい、ではごゆっくり…」

 女将がそういうと二人は戻って行った。

奈香:「ごめんなさい、芹雄さん…折角の朝食が…」

芹雄:「いや、気にする事は無い。さ、食べよう。」

全員:「戴きます。」

藍玲:「ん〜…っ!今日も美味しいアルね〜…」

ファンチ-ヌ:「そうね。昨日の店とは違うけど、ここの料理は別の良さがあるわね。」

奈香:「…そうなんですか…?私はここに来て日が浅いのでまだ良く判らないんですが…」

芹雄:「そうだな…家庭的な感じがするんだよ。所謂「お袋の味」ってやつだ。」

奈香:「成る程。そう言われれば判る気がしますね。一口一口、満足する感じがします。」

 会話しながらの食事。仲の良いこのパーティーでは穏やかで楽しい一時である。
食後、今後の事を話し合う。

奈香:「これからどうしましょうか?」

藍玲:「これといった良い依頼も無いみたいアル。」

ファンチ-ヌ:「でも、何もしないというのもどうかと思うわね。」

芹雄:「…やっぱ…訓練してもらいたいんだが…」

藍玲:「訓練?…ま、やっぱそうアルね。」

奈香:「私達はまだまだ力量不足ですからね。」

ファンチ-ヌ:「そうね。経験は充分積んだし、この町でもっと訓練してからその後に他の町に行く事にしましょうか。」

芹雄:「うむ。やる気があってよろしい。頑張ってくれ。」

藍玲:「やっぱり芹さんは何もしないアルか?」

芹雄:「ま…そうなるかな。まぁ、別に心配する事は無い。」

奈香:「ごめんなさいね…でも、この迷惑は冒険中に返しますから。」

芹雄:「ん…期待する。」

ファンチ-ヌ:「じゃ…行きましょうか。じゃぁね、芹雄。たまには様子見に来てね?」

芹雄:「あぁ。頑張れ…!」

 その場で解散した。3人は席を立ち、各部屋に戻ったようだ。
後で、宿の前で訓練所に行く準備をした三人を玄関先で見送る。

芹雄:「じゃぁみんな、頑張ってな。たまには顔、出すから。」

三人:「は〜いっ!」

 3人は元気良く歩いて行った―――――


 ―――――5日後、約束通り芹雄は訓練所を訪れた。3人の修行状況を見る。
 藍玲………冒険者的職業は『盗賊』なので『敏捷』の訓練をしてるようだ。
『敏捷』――攻撃の威力にはまったく関連しないが、戦闘時の速度、特に攻撃回数・回避率にかなり影響が出る。そのほか、罠や鍵の解除の確率や体力が増えるので欠かせない能力であると言える。
どのような訓練なのか…そんな詳しい事ゲームでやる訳無いじゃないですか。なので自分ではこうあって欲しい…訓練状況。

 基本中の基本で、バネを伸ばすトレーニング。瞬発力と反応を鍛える。
次に、走る。持久力を上げるのではなく、ダッシュ。足の速さを鍛える。
複合で、森の中を木や枝に当たらないように目的地まで走り抜ける。
更に、狭く罠の仕掛けられた迷路のような場所を制限時間以内に走り抜ける…といった内容。
他にも、器用さも訓練。所謂ピッキング。

 休憩中の藍玲に近付いて話し掛ける。

藍玲:「……ふぅ…」

芹雄:「よっ、お疲れさん。頑張ってるな。」

藍玲:「えっ?…あぁ〜!芹さ〜ん!良かった〜。応援に来てくれたアルか!?」

芹雄:「あぁ、約束したしな。にしても…結構頑張ってるなぁ。これなら凄い成長が見られそうだ。」

藍玲:「ウン!期待しててヨ!」

 ガッツポーズを取る藍玲。その休憩時間中、会話をしながら過ごす。

藍玲:「あっ…もう休憩終るアル…う〜、早いアルぅ…」

芹雄:「そうか…すまないな、俺の所為で貴重な休憩時間、潰しちゃたな…」

藍玲:「ウウン!そんな事無いアルよ。芹さんに会えたから元気出たアル!」

芹雄:「おっ…照れる事言うね…」

藍玲「社交辞令アル♪」

芹雄:「なんーじゃい、そりゃ。」

藍玲:「えへへっ。じゃ、ネ!芹さん。また…応援に来てね!」

芹雄:「お〜う。頑張れよ〜。」

 ≪タタタタタタ…≫
その言葉に肯いた後、走ってその場を去って行った。

芹雄:「次はファンチーヌか…」

 なんか…節操にだらしない男のような独り言だな…

 ファンチーヌ………冒険者的職業は『戦士』なので『筋力』の訓練をしてる。

『筋力』……まんま、攻撃力と体力に影響を与える能力。とにかくこのゲームはダメージ命なのでこの値が低かったら何も出来ないと言っていいほど重要。 たしかに攻撃魔法は強力だが、魔力の最大値が200なのに1回の消費の激しいこの世界では、あまり有効な手段とは言えない。属性に思いっきり影響されるし。
さて、この訓練の内容だが…当然仮想。
といっても、やはり毎日の筋力トレーニング・持久走で基礎体力をつけ、武器の素振りや稽古をしたりする。
シンプルだが、最も効率の良い鍛え方だとは思う。変に無理して体壊したり、嫌な肉の付き方するよりは…

藍玲の時とは違い、ファンチーヌの訓練は終了したところだった。さっそく挨拶を交わす。

ファンチ-ヌ:「お先で〜す、ありがとうございましたぁ〜っ!」

芹雄:「よう、お疲れ。」

ファンチ-ヌ:「あら、芹雄じゃない。なに?ひょっとして励ましに来てくれた?」

芹雄:「あぁ、まぁな。でも遅かったか。」

ファンチ-ヌ:「え…本気だったの?あはは〜…ごめんねぇ。でも…ありがとう。」

芹雄:「いや…まぁ、約束したしな。する事も無いし、様子見くらいは来ないと。」

ファンチ-ヌ:「ふふっ…それだけでも嬉しいわ。ホント、ありがとうね。」

芹雄:「ん。―――あ、宿舎はそっちか。じゃぁ、またな。おやすみ。」

ファンチ-ヌ:「うん…またね。気を付けて。」

 辺りはすっかり暗くなってきた。奈香の様子見は明日にして芹雄は宿に戻る。
―――次の日、奈香の様子見の為、再度修行場を訪れた。
奈香…………冒険者的職業は『魔法使い』なので『知性』の訓練をしてる。
『知性』……魔力・魔法攻撃力に影響を与える能力。他に、魔法を使う条件にもなっている。知性が低いと高レベルの魔法が使えない。 魔力を消費するアイテム・武器も存在するので戦士でも案外必要とされる。
さて、訓練内容だが……勉強です。それだけ。本を読むなり講師の話に耳を傾けるなりして知性を上げる。

奈香は屋外で本を読んでいた。丁度一段落着いたのか、本を閉じ溜息をつく。休憩するのだろう。良い機会なので挨拶をする事に。

芹雄:「おす。頑張ってるな。」

奈香:「?…あっ、芹雄さん!お久し振りです。」

芹雄:「おぅ、久し振りー…って、1週間も経ってないだろう…」

奈香:「あ、そうでしたね。えへ。」

 自分で自分の頭を小突いて、舌をペロッと出す奈香。

芹雄:「はは…で、さっき何を読んでたんだ?」

奈香:「え? あぁ…これですか?『ムサ死の犬』です。」

芹雄:「………は?」

奈香:「面白いですよ〜。むさ苦しい男共が次々と主犬公(?)『戸市(トイチ)』に襲われて死んでいくんですよ。」

芹雄:「へ、へぇ〜…そうなの…」

奈香:「というのは冗談で、」

芹雄「冗談かい!」

奈香:「本当は魔法と四大精霊に関わる文献です。芹雄さんも読んでみます?」

芹雄:「いや…いいよ。勉強は苦手なんだ。」

奈香:「そうですか…あっ、と…次、講義があるんだった…でも…」

芹雄:「あぁ、そうか。じゃ、俺はこの辺で帰るよ。」

奈香:「すいません、せっかく応援に来て頂いたのに…」

芹雄:「いや、充分楽しめたから。じゃぁな、頑張れよ。」

奈香:「はい!じゃ、またです!」

 

芹雄:「さて…宿に戻るか…」

 と、訓練所を出ようとすると、道場の方から轟音が聞こえた。

芹雄:(? 何だ?)

 気になり、訓練所に戻って受付の人に何があったのか訊く。

受付:「ど、道場破りが来て…今道場で師範と…」

芹雄:「道場破りか…まったく。迷惑な…」

 修行場にまれにだが、『道場破り』なる者が現れる時がある。さすがになかなか手強い相手だが、勝てば知名度が上がる。
今、ここでは仲間の3人が訓練をしている。潰される訳にはいかない。芹雄は道場に向かって歩き出した。

受付:「あっ!?何処に行くんですか!?そっちは道場ですよ!?」

芹雄:「だから。その道場破り、俺が倒してやるよ。」

受付:「そんな…危険です!止めてください!」

芹雄:「まぁまぁ…心配しなさんな。大丈夫だから。」

 ―――道場――――

 中央に屈強そうな体格のいい男が仁王立ちして笑っている。

道場破り(以下:大念寺):「かっかっかっ!弱いのぅ…その程度で師範とは笑わせる!この道場もこの「大念寺勝次郎」様が押さえたり!」

芹雄:「おさえなかったり。」

大念寺:「な…なんじゃとぅ!?貴様ぁ…このワシをコケにするとは良い度胸じゃ…覚悟も出来ておるんじゃな…?」

芹雄:「あ〜あ〜…うるせーハゲオヤジだなぁ…迷惑だからとっとと何処かに行ってくれないか?訓練の邪魔なんだよ。」

大念寺:「く…この、優男が…もう堪忍ならん!打ち殺してくれる!!」

芹雄:「…ふンッ…単細胞の雑魚が………ん…?おっと、しまった。武器宿に忘れた。」

大念寺:「今更そんな事を言っても容赦はせんぞ!!………死に曝せ!」

 ≪どごッ!ばぁんっ…!≫
 鳩尾への肘鉄→顔面への裏拳―――のコンボ。

大念寺:「うッ!?ぶほぁっ!」

芹雄:「お〜、悪い悪い。カウンターでしかも良い所に入っちまった。」

大念寺:「な…何故じゃ…何故こんな強いやつが…ここに……」

芹雄:「俺?俺は只の通りすがりだ。ここの訓練中の者じゃないぞ。」

大念寺:「うぐ…世界は…広いのぅ………」

 そういって大念寺といった道場破りは気絶。
用事が済んだので芹雄はさっさと訓練所を出て、道草食わずに宿に帰った。

 それから芹雄はもう1回ずつ3人の様子見に行った。


 訓練が始まって二週間後の2/1日、芹雄は玄関のロビーでマスターと話していた。そこに3人が宿に帰ってきた。

藍玲:「たっだいま〜アル〜ッ!」

奈香:「ただ今戻りました。」

ファンチ-ヌ:「あ〜、最後の稽古きつかったー…」

芹雄:「おう、お帰り。みんなお疲れさん。今日はまだちょっと早いけどもう寝た方がいいぞ?」

ファンチ-ヌ:「うん…そうさせてもらうわね…もうヘトヘトなの…」

マスター:「今風呂は誰も使ってないからゆっくり出来るぞ?」

藍玲:「本当アルか?じゃ、ワタシ入るアル〜!」

奈香:「あ…私も…」

ファンチ-ヌ:「ん〜…汗流すだけでも一応入ってこよう…」

 そして3人はその場から去って行った。
そして残った二人の会話が再開する。

芹雄:「で、アレの今年の開催国はここなんだな?」

マスター:「あぁ、そうだ。お前も久し振りだろう?出てみたらどうだ?」

芹雄:「そうだな…久々になんかワクワクしてきたぜ…2月8日か…」


 ……2/8にこの東方都市で開かれる『アレ』…
それは一体なんなのかッ!?
次号、震えて待て! <何故…しかもカナリア?


第十七章

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