ルナティックドーン 前途への道標
〜剣士【芹雄】の冒険記〜

〜 第二十章 〜

噂の少女



 ――――異世界『アクエルド』・サラダム地方、サランドン……
芹雄がここを訪れてから二日目…昨日と同じく地上に出て町中の見回りをしていた。
朝から夕方まで活動して、地下に戻った。ここに来た本当の目的を果たす為に。

芹雄:(今日は会えるだろうか…?)

 取り敢えず、仕事しっぱなしで疲れたので休憩のため酒場に行く。

マスター:「よう、今日も相変わらずの活躍振りだな?」

芹雄:「げ…また報告されたのか…今日は見られてないと思ったんだがなぁ…」

マスター:「いや、見られてる見られてない以前の問題だ。モンスターの死体が昨日以上に転がってるんだからな。」

芹雄:「…それって、俺がやってなくても俺の所為になってるだけなんじゃ?」

マスター:「いやいや。もう他の冒険者らは見張りだけに専念してるから、モンスターを退治してるのはあんただけだ。」

芹雄:「…じゃぁ、以降俺がやらなかったらモンスターは増える一方……?」

マスター:「そうだなぁ…残念ながら、そういう風にてなってしまったようだ…諦めてくれ。それと…サボるなよ?」

芹雄:「ぐお!まだ二回しかやってないのに!酷い話じゃぁ〜…苛めじゃぁ〜…よよよ…」

 そう言いながら机に突っ伏す。

マスター:「まぁ、それはいいとして。確かに任せっきりは駄目だろうな。みんなにも今後は退治もするように言っておこう。」

芹雄:「そうしてもらえると助かる…」

マスター:「で…あんたもいい加減チームを組んだらどうだ?一人で戦うのも楽じゃないだろう…冒険者は結構居るんだし、誘ったらどうだ?」

芹雄:「…ん?それは別にいいよ…あぁ、誘うと言えば、昨日スゲェ魅力的な冒険者見つけてさ…誘ったけど断られちまった。」

マスター:「凄い魅力的な冒険者…?」

芹雄:「あぁ。愛蓮さん…って言ったかな?」

マスター:「愛蓮?あぁ、彼女か。彼女は今、レナスとパーティを組んでるからな。そりゃ断るだろう。」

芹雄:「な、何だって!レナスの仲間!?」

≪バンッ!≫
 その話を聞き、急に机を叩いて立ち上がると、声を大にしてマスターに問いかけた。瞬間、酒場の客から注目される。

マスター:「あ…あぁ。そうだ。」

芹雄:「そうか…レナスさんを探す方法が増えた。サンキュー、マスター。為になったよ。」

マスター:「そ、そうか?そりゃぁ何より…」

芹雄:「じゃぁ、今からレナスを探しに行くよ。また来る。」

マスター:「お、おぉ…あぁ!昨日も言ったがレナスは―――」

芹雄:「判ってるよ。何もしないって。ただ会って話をするだけだ。」

 そして、酒場を後にする芹雄。

マスター:「………まぁ、それだけならいいんだが………って、もう居ねぇし!

 

 サランドンの地下施設の通路を暫く歩き回ってレナスと愛蓮を探す。

芹雄:(レナスさんと愛蓮さんのどっちでもいいから見つから……………)

 ふと思い止まる。

芹雄(俺レナスさんの顔、知らねーじゃん!)

 そうであった。探そうにも、相手の顔…いや、それ以前に名前しか知らないと言う事が今判明

芹雄:(参った…結局自力で本人を探すのは無理ということか…訓練所か愛蓮さんだな。)

 取り敢えず、訓練所をあたってみる。

師範:「レナス?今日は来てないなぁ。」

芹雄:「そうですか…じゃぁいいです…お邪魔しました。」

 訓練所を後にする。

芹雄:(う〜ん、またか…ということは、頼みの綱は愛蓮さんと言う事になるな…)

 ……と、言うわけで再び歩き回って愛蓮さんを探す。

芹雄:(う〜ん…これって一番効率悪い探し方じゃないか?)

 やってる事に、物凄い不安を抱き始め、立ち止まる。

芹雄:(…一度酒場に戻って愛蓮さんの居場所を聞いてみるか…)

 と、酒場に行こうと振り返ると…偶然にも愛蓮さんを発見する。
……はい、そうですね。出来すぎてますね………ネタが無いんだよ!判ってくれよ!

芹雄:「愛蓮さん!」

愛蓮:「……? はい?あら、芹雄さん…でしたっけ?」

芹雄:「そうです。いや〜、名前を覚えてもらったなんて光栄だなぁ…じゃなくて!愛蓮さんはレナスさんの仲間というのは本当ですか?」

愛蓮:「レナスさん?……あぁ、レナの事ですか。えぇ、そうですよ。それが何か?」

芹雄:「えぇ、実はですね…俺、レナスさんに会いに来たんですよ。でもなかなか会えなくて…それで愛蓮さんに紹介してもらえないかな〜と思って。」

愛蓮:「そうですか…1つお尋ねしますが、あなたは本当にレナに会うだけですか?」

芹雄:「え………?」

 思いがけない事を聞かれたので思わず返答の言葉に詰まる。
そして、その返答を聞いた途端、愛蓮の態度が変わった。

愛蓮:「…残念ですが、あなたをレナに会わせる訳にはいきません。諦めて下さい。」

芹雄:「え?…な、なんでですか!?」

 いきなりの態度と答えに驚きを隠せない。少し強めに聞き返した。

愛蓮:「あなたは今のこの状況を把握していますか!?レナはサランドンの人たちの希望なんです… こんな時にこういことするなんてなんて非常識だとは思わないんですか!?」

芹雄:「…はい?…ちょっと、何の事ですか!」

愛蓮:「…これ以上、あなたと話しても無駄のようですね…さようなら。」

芹雄:「ちょっ………ムッ。」

 誤解されてる上に一方的に責められてその上、話も聞かずに去ろうとする愛蓮に、芹雄はちょっと腹を立てる。

芹雄:「ちょっと待てよ。」

≪ガシッ、ぐぃっ!≫

愛蓮:「きゃっ!痛っ…」

 立ち去ろうとした愛蓮の腕を掴んで無理矢理引き止め、無理矢理こっちに向かせる。

愛蓮:「放して下さい…!人を呼びますよ…!」

芹雄:「呼ぶがいいさ…大声を上げてな。そうすれば人は来るだろう。まぁ、大混乱が起きるだろうがな。 怪物に怯えて暮らしてる人々はさぞ恐怖を味わうだろうな。」

愛蓮:「…くっ、卑怯者!あなたは人間のクズだわ!」

芹雄:「クズだろうと悪魔だろうと、今は何とでも言うがいいさ。でもな、ここまでしないと話を聞かないあんたは失礼な人間だ。」

愛蓮:「…なんですって?」

芹雄:「俺だってこんな事したくないさ。勝手な思い込みで誤解して暗殺者扱い…失礼極まりないだろうが!」

愛蓮:「悪人の分際で偉そうな事を…暗殺じゃなかったら何?誘拐?それとも、レナの持つ道具が狙い?」

芹雄:「あ〜、も〜!いいから話を聞けッ!」

 ≪喝!≫という感じの口調で言い放ち愛蓮の目を見る。愛蓮が止まったのを確認してから穏やかな口調で話し始める。

芹雄:「…いいですか?まず、レナスさんに会いに来た理由は、ただ純粋に会いたいからです…判りますか?」

愛蓮:「……………」

≪コクリ≫
 愛蓮はただ黙って頷く。

芹雄:「それで、なんで会いたいのか、は、活躍を聞いたからどんな人なのか確かめたかったから、です。」

愛蓮:「…………………」

芹雄:「それはそうでしょう?16歳の新米冒険者という少女が、大の大人でも困難な事を一人で成し遂げているんですから。」

愛蓮:「…………………」

 真っ直ぐ目を見て話しかける芹雄に、愛蓮は黙って話を聞いている。

芹雄:「それに16歳の若さにして武術の達人になったという話も聞きました。」

≪ぴく…≫
その言葉に愛蓮が反応する。

愛蓮:「…じゃぁ、あなたは挑戦者なんですか?」

芹雄:「…はいぃ〜っ?」

 またも勘違いしているらしい。『いらん事を言ってしまったか…』と思う芹雄。

愛蓮:「だったら同じ事です!レナスに会わす事は出来ません!諦めて―――」

芹雄:「だから!最後まで話を聞いてください!」

 また誤解されてるようなので愛蓮の言葉を途中で遮る。
もうレナスに会う事よりも誤解を解く事がなにより重要に思えてきた

芹雄:「達人だろうがなかろうが、戦いを挑むつもりは無いです。さっきも言ったでしょう?純粋に会いに来ただけですよ!命も狙ってません!」

愛蓮:「……………」

 まだ疑ってるようだ。

芹雄:「はぁ…どうすれば信じてもらえるんですか?」

愛蓮:「そうですね…取り敢えず、悪人でない事が判れば…」

芹雄:「悪人じゃない事?…ふむ。そうだな………あ、そうだ。」

≪スラ―……≫
 そう言い、思い出したかの様に背負っていた降魔の利剣を、鞘から抜いて愛蓮に見せる。

芹雄:「愛蓮さんはこの武器のこと知ってますか?」

愛蓮:「!? そ…それは『降魔の利剣』!?」

芹雄:「そう!そうです。善と秩序の性質を極限に持つ者にしか持つ事を許されない聖剣です。平気で持ててる事で善人って判りますよね?」

愛蓮:「…何故あなたがこれを持ってるんですか?」

芹雄:「え? まぁ、1年くらい前に入手してから、ずっと使ってる―――」

愛蓮:「そんな筈は無いわ…『降魔の利剣』は今レナスが所持してる筈…唯一武具であるこの剣がここにある筈が…はっ!?まさかレナスから盗んだのですか!?」

芹雄:「ちっ、違うわ!なんであんたはそう、マイナスにしか考えられんのだ!?」

<セリオス>:[(他の冒険者から盗んだんだけどな…まぁ、一回や二回の悪事で持てなくなる事もないが。)]

愛蓮:「だってそうしか考えられない…」

芹雄:「む…まぁ、確かに唯一武具だから他の人が持っているのを知っていれば確かにおかしいだろうな…でも盗んだら(事実上)悪人ですから、この剣持てないでしょ?」

愛蓮:「そうですね…あ、ではレナスの火炎斬と同じレプリカですね?それじゃぁ、善人かどうか判断できませんよ。」

芹雄:「な…なんでレプリカという発想が…?まぁそれはいいとして…違います、これは本物ですよ!なんなら持ってみますか?」

愛蓮:「あ、それは無駄ですよ?本物でも抜く事は出来ますから。」

芹雄:「ぬおぉぉぉ……どないせいっちゅーんじゃぁぁぁぁ………」

 証明する手段が無くなり、苦悩するあまり、頭を抱えて膝を落す芹雄。

愛蓮:「……………そうですね。1つ聞きますが、善と秩序の性質が極めて高い、と自信を持って言えますか?」

 見兼ねた愛蓮がそう言った。それを聞いて芹雄は顔を上げて言う。

芹雄:「言えます!っていうか、さっきから言ってます! 信じてくださいよ…」

愛蓮:「では、私が今からあなたを試させてもらいます。それをこなす事が出来たなら信用しましょう。」

芹雄:(なんでここまで疑われなくてはならんのだ…)「…判りました…受けましょう。その試練。」

愛蓮:「そうですか。では私の後について来て下さい。」

芹雄:「は? はぁ…」

 そう言って、愛蓮の後について歩いて行く………

 暫くして、ある部屋の前に辿り着いた。扉のプレートには『執務室』と書かれている。

愛蓮:「部屋の前で少し待っていて下さい…少し用事があるので。」

 そう言って、扉をノックし『入れ』という声の返事の後、扉を開けて中に入って行った。ちらと見ただけだが、かなりの広さがあるのは判った。ここの代表者の仕事部屋だろう。

芹雄:(ここに用事…?なんだ?ひょっとして愛蓮さんて、偉い人だったのか!?げげ!ヤバイ事したかな…?)

 ――――などど、冒険者がこんな施設持ってるわきゃねーだろうという事にも気付かずに悩み始める芹雄。

 その頃、執務室では………

???:「―――定期報告に来たのだな?…して、あの二人の様子はどうだ?」

 執務室に入って来た愛蓮の方を向く白髪の老人…実はこの男このサランドンの豪商フェンリルの会長でこの地下施設の持主にして代表者である。

愛蓮:「はい…傷は順調に回復しているのですが、やはりまだ意識不明のままです。それ以外は今のところ問題はありません。」

???:「そうか…報告ご苦労。下がっていいぞ。」

愛蓮:「はい。あの、アクターさん。少しお願いがあるのですが…お聞き願えますか?」

アクター:「ん?なんだ?お前はレナスの友人なのだから出来る事なら何でもするぞ。」

愛蓮:「有難うございます。それで、その件なんですが。今日私を訪ねて来た…いえ、正確にはレナスを、ですね。その、レナスに会いに来たという冒険者が居るんです。」

アクター:「なんだと…?レナスに会いに来た冒険者?…男か?」

愛蓮:「えっ? ええ…はい、そうです。でもその人はレナスを知らなかったようなので、レナスの仲間である私に声をかけたらしいです。それで――――」

アクター:「? レナスを知らない…? ふむ…どうやら違うようだな。…続けろ。」

愛蓮:「?…はい。それで、暗殺の依頼を受けた闇ギルドの一員かも知れないと思ったので、色々と口論したのですが、自分はただレナスに会いたいだけだと言い張るので、 信用できるかどうか1つ条件を出したのです。その条件とは『善人である事を示して欲しい』でした。善人なら闇ギルドに居る事も無いだろうと思ったので。」

アクター:「ほほう…それで?」

愛蓮:「はい。すると、彼はレナスが持っている筈の『降魔の利剣』を取り出したのです。」

アクター:「な、なんと…降魔の利剣を…?」

愛蓮:「ええ。たしかにあの剣は善と秩序の性質を極めないと、持つ事以前に鞘から抜く事すら出来ない聖剣です。ですから―――」

アクター:「うむ…確かに抜く事が出来たなら善人だと証明できるな…」

愛蓮:「そうですね。それで、彼はその剣を普通の剣を抜くかのように鞘から抜いて見せました。」

アクター:「ほう…それは凄いな。しかし…レナスも持っているのだろう?降魔の利剣を。」

愛蓮:「はい。まぁ、今のレナスでは抜く事が出来ませんが…デスドラゴンの戦闘で必要になるからって、どうすれば抜けるか思案してたのを今日見ました。」

アクター:「そうか…で、その者が降魔の利剣を持っているのはおかしい、と?」

愛蓮:「はい、そうです。恐らく…いえ間違い無くレプリカだと思います。ですから、その場では信用する事が出来ませんでした。」

アクター:「そうか…………」

愛蓮:「それで、もう1つだけ試練を出してみました。それがアクターさんにお願いする事です。」

アクター:「ん?どういう事だ?」

愛蓮:「このフェンリルには世界中のどんな物でも置いてあるんですよね?」

アクター:「なんだ?疑うのか?」

愛蓮:「い、いえ!そういうつもりではなくて…」

アクター:「まぁ、冗談だ。……そうだな、あらゆる物が置いてあるといっても言いだろう。」

愛蓮:「そうですか…では、降魔の利剣と同じ条件を持つ武具というのは無いですか?」

アクター:「……同じ条件?」

愛蓮:「はい。『善と秩序の性質を持つ者にしか持つ事が許されない』という物です。」

アクター:「あぁ…そういう類の物なら武器庫に保管してあるが?」

愛蓮:「ありますか!良かった。では、それらの武具を一式、お借りしてもよろしいでしょうか?」

アクター:「うん?構わんよ。前にも言っただろう、好きなものは持っていってもいいと。」

愛蓮:「そうでしたね。それでは武器庫の鍵をお借りできますか?」

アクター:「ああ………いや…わしも行こう。その者に興味がある。」

愛蓮:「えっ?そんな…アクターさんのお時間を割く訳には…!」

アクター:「いや。丁度一段落ついたところで暫く時間が空いている。心配は要らん。」

愛蓮:「それでも…さすがにこの部屋空ける訳にもいかないと存じ上げますが…」

アクター:「う〜む…では、その者は今何処に居るのだ?」

愛蓮:「…え? は、はい…この部屋の前で待機して頂いております…」

アクター:「呼んでくれ。」

愛蓮:「…………はい?」

アクター:「聞こえなかったのか?…この部屋に入れろと言ったのだが。」

愛蓮:「はっ、はい!申し訳御座いません!直ちに…」

 そう言って、扉まで小走りで向かい、扉を開ける。
≪ガチャリ…≫
何の合図も無く急に扉が開いたので、考え事をしていた芹雄は思いっきりビビる。

愛蓮:「芹雄さん…アクターさんがお呼びですので、こちらへ来て頂けますか?」

芹雄:「へ…?は、はぁ……」

 言われるまま、案内されるままに執務室へと入る芹雄。
部屋の奥にある大きな机の向こうの椅子に座っているお爺さんと目が合う。

愛蓮:「アクターさん、芹雄殿をお連れしました…」

アクター:「うむ、ご苦労。悪いが少し席を外してくれ。二人で話がしたい。」

愛蓮:「えっ…?しかし……………はい、では失礼します…」

 そして、愛蓮は部屋を出て行った。

アクター:「初にお目にかかる。私はこの地下シェルターの代表でフェンリルの代表取締役を兼ねている『アクター=ゲインズブール』という。」

芹雄:「…俺は只の冒険者で「芹雄」という者です。」

アクター:「只の冒険者…? 称号などは持ってないのかね?」

芹雄:「称号、ですか…まぁ、前の剣闘会では『風と光の英雄』と名乗ってましたが…俺はちょくちょく変えるので特に意味は無いですね。」

アクター:「ふむ、そうか…わかった。 では本題に入ろう。芹雄…と言ったな?愛蓮から聞いたのだが、お主は降魔の利剣を持っているらしいな。」

芹雄:「ええ。……これがそうですが。」

 剣を鞘から抜いて、アクターに差し出す。

アクター:「ふむ。どれ……ぬおっ!?
≪ガッ!…カラン。≫

 アクターは剣を持とうとしたが持つ事が出来ず地面に落した。剣は切先から落ちて地面に刺さってから倒れた。

アクター:「……成る程、本物…というわけだな。」

芹雄:「ええ。愛蓮さんは信じてくれなかったんですがね。」

 と、降魔の利剣を拾って鞘に収めながら言った。

アクター:「愛蓮は愛蓮なりにレナスを心配してやった事だ。許してやってくれ。」

芹雄:「まぁ…いいですけど…」

アクター:「それで…だ。お主に1つ聞きたい事がある。」

芹雄:「はい?なんでしょう。」

アクター:「お主は一体何物だ? この世界の住人ではないだろう。」

芹雄:「!? な、何故そんな事を…?」

アクター:「この武器を使っているのだから知っていると思うが、降魔の利剣は世界に二つは存在しない… この世界では既にレナスが本物を持っている。つまり本物がもう一本あるのはおかしいのだ。」

芹雄:(…駄目だな。完全にアクエルドの人間じゃないと悟られてる……う〜ん…まぁバレたからといってどうって事も無いし言ってもいいか…)

アクター:「答えてくれ。お主は一体―――」

芹雄:「俺は異大陸『バイラーダス』からやって来た旅人です。この剣は元の世界で手に入れた物です。」

アクター:「……やはりそうか…『リンクゲート』を使ったのだな?」

芹雄:「そうです。」

アクター:「なるほどな…それなら話が判ると言うものだ…しかし、愛蓮はどうしたものか…まぁ、やらせるだけやらせるとしよう…」

 何か呟いた後、机の引出しの中から一本の鍵を取り出し、芹雄に渡す。

芹雄:「……?何ですか?」

アクター:「この鍵を愛蓮に渡してくれ。愛蓮の言う試練を受けてやって欲しい。」

芹雄:「はぁ…解りました。では失礼します。」

アクター:「…異世界の者よ。助けに来て頂いたのは嬉しいが、1つだけ忠告しておく。あまりこちらの世界の出来事に関与しない方がいい。自分の為にも、な。」

芹雄:「えぇ。それは判ってます。それでは――――」

アクター:「あーっと! もう1つ、個人的な頼みがある。今はレナスをそっとしておいてやってくれ。」

芹雄:「え…?何故です?」

アクター:「今のレナスはかなり多忙なのでな。民からの期待が大きいので修行を欠かさずしてる上、先日のデスドラゴンに怪我を負わされた二人の看病もしている。」

芹雄:「そうですか…じゃぁ、会わないにせよ姿を確認するくらいなら大丈夫ですか?」

アクター:「あぁ…それくらいなら全然構わない。」

芹雄:「解りました。では失礼します。」

 そう言い、執務室を出る芹雄。表では愛蓮が待っていた。

芹雄:「あぁ、愛蓮さん。アクター殿からこれを渡すように言われた。」

 さっそく鍵を取りだし愛蓮に渡す…が、何か考え事をしてるのかなかなか手を出さない。

芹雄:「愛蓮さん?」

愛蓮:「え?…あぁ、武器庫の鍵ですね。有難うございます。」

芹雄:「? どうかしましたか?」

愛蓮:「い、いえ…なんでもありません…それでは行きましょうか。ついて来て下さい。」

 そして芹雄に背中を向けて、先に歩き始めた。
芹雄は不思議に思った。またも態度が違うのだ。先程よりもさらに避けてるような感じ…
例えるなら、先程が嫌いな人物に対する態度で、今度のは次元が違う人間に対する―――

芹雄:「ははぁ…なるほどね……」

愛蓮:「な、なんですか?」

 少し足を速めて愛蓮の隣に並ぶ芹雄。

芹雄:「アクターさんとの話……聞いたな?」

≪ビクッ!≫
愛蓮は驚いて芹雄の顔を見る。肯定も否定もしなかったが、反応が語っていた。

愛蓮:「本当は…そんな、話を聞くつもりなんて無かったんです…アクターさんの驚いたような声と何かぶつかるような音が聞こえたから…」

芹雄:「で、俺がアクターさんに襲いかかってると思った訳か…」

愛蓮:「…すいません……」

芹雄:「いや、それはもうどうでもいいや。で、いつから聞いてた?」

愛蓮:「芹雄さんが剣を収めてる時からです…でも安心して下さい。誰にも言いませんから。」

芹雄:「いや、まぁ…別にバレても何も影響が無いなら別にいいんだけどね…」

愛蓮:「そうなんですか?」

芹雄:「まぁ、バレないままで済むならそれでいいんだが。」

愛蓮:「では御心配無く。誰にも漏らしませんから。」

芹雄:「ああ。そうしてくれると有難いね。」

 そんな会話をしてる内に、武器庫に辿り着く。愛蓮が鍵を取り出し扉を開ける。

芹雄:「なぁ…この降魔の利剣が本物だと判ったのなら別にこの試練やる必要ないんじゃないかな…?」

愛蓮:「まぁ、念の為ですよ。アクターさんも受けるよう仰った訳ですし。」

芹雄:「そうか…まぁ、良いでしょう。で、何を着ければいいんだ?」

愛蓮:「えっ?……………」

芹雄:「? ……………まさか。」

愛蓮:「ご、ごめんなさい…聞くの忘れてました…」

芹雄:「はぁ… 一つくらい知らない?」

愛蓮:「皆目…見当が付きません…」

芹雄:「うむむ……じゃぁ俺ちょっと探してるから、愛蓮さんアクターさんに聞いて来てくれ。」

愛蓮:「わかりました!…………って、逃げませんよね?」

芹雄:「な……っ!まだ疑うか、この人は!ええい…とっとと行ってしまえ!うがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 『ムキ―――!』という感じで両手を上げて怒鳴って愛蓮を行かせる。

芹雄:「さて…善秩序専用アイテムを探すのか…この中からか……頭痛がする………ん?」

 それらを良く見ると、上手い具合に種類別で分けられている様だ。アクターという人は結構神経質な性格をしている…

芹雄:「ふむ。これなら探す手間が省ける…え〜と…片手剣『デュランダーナ』。まずはこれだな。」

 『片手剣』と書かれたプレートの下に数本の剣が壁に掛かっている。そこから芹雄は一振り大剣を手に取る。
この大剣こそ遥か彼方の英雄が使っていたとされる片手剣『デュランダーナ』なのである。大剣であるが、不思議な力で重さが軽減されている。
芹雄がこの剣を鞘から抜くと、待ってましたと言わんばかりに眩しく光り輝く!
が、抜ける事が判ったらすぐに収めた

 次に、盾が置いてある棚。そこに『ガリバルディシールド』という英雄のみが手に取る事が許された盾。盾自体が所有者を選ぶとされている。
芹雄がこの盾を手に取り腕に装着してみると、所有者と見とめたのか、黒ずんでいた中心部が金色に輝き出す!
でも、ずっと持ってても仕方ないので、使える事が判ったらすぐ装備から外した

 続いて鎧が置いてある棚に来た。そして『逆鱗鎧』を見つける。伝説の生物「龍」の怒った状態の鱗だけを用いて造られたという鎧。 その優れた性能から普通の龍の鱗で造られた鎧が出回る事がある。しかし、偽物はやはり一切の能力上昇効果を持ち合せておらず、不滅でも無い為壊れる事がある。
芹雄はこの鎧を装着する。すると、鎧自体が生きているかのように気が高まる!力を与えてくれるのが判る…!
でも、動けないという程ではないが普通に重いのですぐに脱いだ

 最後に兜が置いてある棚に来た。そこで『ジンニーヘルム』という精霊の属性を持つ黄色い兜を見つける。
そしてかぶると精霊の知性が頭の中に入ってくる…!これが精霊の力!
でも黄金兜の方が便利なのでやっぱり脱いだ。

 ジンニーヘルムを外したところで愛蓮が戻って来た。

愛蓮:「わかりました!『デュランダーナ』『ガリバルディシールド』『逆鱗鎧』『ジンニーヘルム』『正鵠弓』です!」

芹雄:「そうか。じゃぁ、それらを装備できたら信用してもらえるな?」

愛蓮:「そうですね。でも、私は武具に詳しく無いので、それを着けてアクターさんの所まで行って、確認してもらいます。」

芹雄:「なにッ!?そこまでやらすのか?」

愛蓮:「あら?嫌なら別にやらなくてもいいんですよ?そうなれば芹雄さんは悪人のまま――――」

芹雄:「だ―――――!!判った!やる!やるから…いい加減悪人というのは止めてくれ…」

愛蓮:「はい。じゃぁ、早速装備して下さい。」

芹雄:「あいよ〜……」

 さっき装備しては外した武具を再度装備する。
そして愛蓮に連れられ執務室まで移動する………なんか愛蓮にいい様に踊らされてる感じがして来た。

 執務室に到着。ノックして返事が返ってきた後、扉を開けて中に入る。

愛蓮:「芹雄さんをお連れしました。装備の確認をお願いします。」

芹雄:「失礼します。」

アクター:「ん? …あぁ、なんだ。やはり判らなかったのだな。だからわしも行くと言ったのだが…」

芹雄:「何ぃッ!?…どういうことかな?愛蓮さん?」

 デュランダーナを抜く芹雄。

愛蓮:「ホホホ…アクターさんも御冗談がお好きで…」

アクター:「…? よく判らんが………うむ。全部本物のようだ。これで証明されたな…芹雄。おめでとう。」

芹雄:「え?…あぁ、どうも有難うございます―――」

≪バタン…≫

芹雄:「?………あ"――――ッ!逃げやがったぁぁぁぁ!!!」

アクター:「あの愛蓮がこのような事をするとはな…よほど気に入られてると見えるな。」

芹雄:「え…?そうなんですか?」

アクター:「それか思い切り嫌われてるかだな。わしは後者に賭けるがな。」

芹雄:「ぶはッ!結局そーなりますか!もういいです!人を異世界の人間だからっておちょくりやがって!」

アクター:「まぁまぁ…愛蓮の代わりにわしがレナスの居場所を教えるから落ち着いてくれ。」

芹雄:「くっ……これ以上ふざけた真似をするなら命の保証は無いと思ってもらいたいな!…取り敢えずこの装備品は返しておく。」

アクター:「…わかった。愛蓮にも伝えておこう…で、レナスの居場所だが、診療室だろう。稽古をしてない時はそこに居るだろうからな。」

芹雄:「診療室か…わかりました。早速行ってみます。」

アクター:「前にも言ったが、レナスには直接……………居ない…わしに気配を感じさせずに出て行くとは…」

≪ガチャ≫

芹雄:「すいません…診療室って何処ですか?」

≪ガクッ≫

アクター:「………わしをコケさせるとは…出来るな…この者…」

 アクターは芹雄に医務室への道順を詳しく説明する。

アクター:「―――と、こう行くのだ。解ったか?で、先程も言おうとしたんだが、レナスには直接会わないでくれ。」

芹雄:「はい、了解です。では。順路教えて頂き、有難うございました。失礼します。」

アクター:「うむ。」

 そして執務室を出、レナスが居ると思われる診療室へ向かう……

 

そして、目的の診療室の前に着いた……微かに数人の声が聞こえる。中に居る事は確かだろう…しかし、ここで問題発生。

芹雄:(どうやって見ればいいんだろう…?)

 そう。まぁ当然といえば当然だが、扉が閉っている。中が見えない。当然レナスの姿は確認出来ない。
かといって、ノックして堂々と開ければアクターとの約束を破る事になるし…覗き見も…アレだし。
変態さんじゃないか……

 と、唸りながら考えてると、気配を感じた。誰かが近付いて来る! 何処から…?診療室からだ!

芹雄:(マズイ…隠れないと!)

 持ち前の敏捷(100=神速)でサッと曲がり角まで移動し、姿を隠す。
そして、そ〜…っと、誰が出て来たのかを確認する…愛蓮だった。

芹雄:(なんだ…愛蓮さんか……驚かしやがって…………???)

 しかし、愛蓮だけではなかった。洋戦士風の男と中近東盗賊風の男も出て来た。

芹雄:「あれが愛蓮さんの仲間か?…勿体無い…ん?まだ居るのか……!?あれは!」

 どうでもいい二人の男の次に、可愛げのある娘がついて出て来た。
長く黒い髪の毛。腰まで延びたその髪を先の方で紐で括っている。それ以外は整えられていないようで、少しぼさっとした感がある。 しかし、それがかえって可愛く見えた。

芹雄:(な、なんだ…?あの娘は…看護婦か何かだろうか?…怪我を負った冒険者の妹かな?可憐で可愛いじゃないか…… いや、いかんいかん!冒険者以外には声をかけない事にしている筈だ!………でも可愛いなぁ…)

 ぽけ〜っと見とれている間に、既に姿が見えなくなる程遠くに移動していた。

芹雄:(うぉッ!?しまった!思わずあの少女に見惚れてしまっていた!)

 急いで後を追おうとする芹雄。だが、扉の前を過ぎようとした時に、本当の目的を思い出した。
『レナスの姿を確認する事』

芹雄:(そうだった…愛蓮さんでも、あの少女でもない。レナスという冒険者に会いに来たんだった…)

 診療室の扉の前に立って考える芹雄。

芹雄:(…そうだ。なにも遠くから見るだけじゃなくても軽く挨拶するくらいならいいんじゃないか?…あの手で行くか。)

 意を決して、扉をノックする。そして、返事を待たない内に扉を開ける。

芹雄「ちわ〜っ!三河屋で〜す!ご注文を受けに来ました〜っ!!」

 …なんと言うアホな作戦であろうか!?
しかし。

芹雄:「………あり?」

 誰も居なかった…いや、正確には起きている人間が居なかった。診療室のベッドに二名寝ていた。包帯が撒いてるあるのを見ると、この二人が例の怪我人であろう。

芹雄:(なんだ…居ないのか。残念…でも良かった♪さっきの聴かれなくて。)

 やはり恥かしかったらしい。

芹雄:(と、いうことは……………さっきのあのカワイ娘ちゃん(死語)がレナスか!?)

 と…いう確率があるだけなのだが、

芹雄:(こうしてはおれん…追いかけなければ!)

≪スサササササササササササ!≫

 秘技・微音走法ON神速。これのお陰で追い付く事が出来た。と、言っても酒場で食事中だったので向こうが動いてないだけだったのだが。
一般客を装い、席に着く芹雄。無論、愛蓮には気付かれないように。しかし、芹雄は忘れていた。ここにはもう一人芹雄のことを知ってる人が居る事を……

マスター:「よぉ!どうだ見つかぶらッ―――!?
              ≪ズ・ビ・シッ…!…………ぱたり。≫
奥義・無想正中三点突……

咄嗟に、反射的に必殺技を繰り出してしまった。

芹雄:(許せ、マスター…これも我が野望(?)の為…」

 暫く様子を窺いながら芹雄も軽い食事をとる。ちなみに、マスターはすぐ回復させてからちゃんと謝ってます。

食事が終ったのか、あの四人が席を立ち酒場を出て行った。芹雄も少し時間をおいてから出て行く。
酒場から少し歩いた交差点。どうやらここで愛蓮とどうでもいい男二人の3人とレナスは別行動になるようだ。
当然レナスの後をついていく。ストーカーチックだが、レナスとはどういう人物か判る為の手段である。
ストーカーには代わりありませんがな。

 暫くストーキングを続けてて判った事…レナスはここの民にとってアイドル的存在であるらしい。
そのレナスもまた声をかけられるたびにいちいち反応して、笑顔を振り撒いている…これで不安になっている民の気持ちを落ち着かせているのか… なんて素晴らしい精神の持主なのだろうか!まるで慈悲心溢れる若き聖母のようだ…
一度、走って来た子供とぶつかったようで、転んだ子供を優しく起こし、おまじないか何かを言ってるのか、子供と少し話していた。その子供は元気に走り去って行った。子供にも優しいのか…

 そしてその後、再び診療室に入って行った。なんと!他の仲間と別れた後も怪我人の看病をするのか!?

芹雄:(参った…人間性でボロボロに負けている…こんな俺があのような一度も悪事をした事がなさそうなお嬢さんに会…………悪事?)

 そこで芹雄はふと思い出した。『バイラーダス』の東方都市の宿屋のマスターの話だ。
『噂だが、何度か指名手配にあってるらしいからお前さんとは性格が合わないだろう』

芹雄:(…………)

 暫く考えた末…

芹雄(ただの噂だったネ♪)

 と、信じ込んでしまった。
地下に居るので良くは判らないが、もう相当遅い時間になっているだろう。芹雄は眠気に襲われた。

芹雄:(そろそろ寝るか…レナスさんはまだ看病を続けるつもりか…偉いな…)

 そして、その場を後にし宿に向かう芹雄であった。
その帰路…芹雄は思い悩んでいた。

芹雄:(確かにアクターさんの言う通りだ。愛蓮さんがどうしてあそこまで心配したのも頷けるというものだ。 俺なんかがレナスさんのような素晴らしい人に会っても調子を乱すだけだな…もう諦めて帰ろうか…いや、せめて声だけでも聞きたいものだ… そうだ。明日は声だけ聞いて、それで帰る事にしよう!)

 そう心に決め、宿へと帰って行った………


 ついに『噂の少女』レナスを見ることが出来た芹雄!
二日目が終り、いよいよ次の三日目……レナスが巻き起こす凄まじい出来事が!
芹雄が見た光景とは!?そしてレナスはどうなるのか!?
次号…待つべし!


第二十章

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