ルナティックドーン 前途への道標
〜剣士【芹雄】の冒険記〜

〜 第二十二章 〜

救出



 異世界『アクエルド』に来て四日目―――
この日もボランティア活動をする芹雄。やっぱり仲間は無しだが。
この日は早めに切り上げて地下に戻った。いつもなら夕方までやるのだが、昨日のあの後、どうなったか気になったので午前の内に様子を見に行こうと思ったのだ。

芹雄:(…まぁ傷は塞いだし、あの男がアホな事をせん限り大丈夫だろう…レナス本人は起きれないだろうしな。)

 傷は芹雄の回復魔法で完全に塞ぐ事が出来たので、あとは達人との戦いで消費した体力と流れ出た血の回復だ。
とにかく出血が酷かったので、一日寝たぐらいでは快復できないだろう。恐らく今は絶対安静の状態で病室で眠っているだろう。

芹雄:(…さぁ、レナス達はどう出るか…)

 昨日聞いた玲奈・リーナの二人の達人の話によれば、先の力のマスター、ポールという男がデスドラゴンに捕まってから四日が経つ。
今日中にレナス達がデスドラゴンの元に行かなければその男が処刑されてしまうのである。
しかし、レナスは動けない、二人のマスターも満身創痍。他の仲間では役不足…まぁ、それらを考慮して浮かぶ言葉は

『絶望』
であろう。

芹雄:(かと言って、何もしない連中じゃないしな…)

ポセ[そうだな。]

 何故芹雄がポセイドンハープーンを持っているのか?と思われるだろう。実は昨日レナスが運ばれた後、またも忘れられたのである。
しかし、今回のは緊急事態であった為仕方のない事なので、ポセも怒っていない。
そこで、訓練所に起き忘れられていたポセイドンハープーンを芹雄が見つけて拾って、今に至る…

芹雄:(…で、悪いがポセにはレナスの部屋に行く為のダシになってもらう。)

ポセ[…我もあの場所で拾ってくれたお主に恩を返さねばならん。気にする事は無い。]

芹雄:(物扱いして申し訳ないが、よろしく頼む…)

ポセ[判った。お主も気付かれないようにな。あの二人は妙に鋭い所があるからな。]

芹雄:(判った。気を付ける。)

ポセ[では健闘を祈る。]

 何の事かを説明すると、昨日男Aと愛蓮が去った後、尾行しなかったのでレナスが療養している病室が判らないのである。 玲奈・リーナが使っていた場所という可能性もあるが、それは低いと思われた。何故か…は判らない。強いて言えば直感というヤツである。 二人が去った後取り残された芹雄が同じく取り残されたポセイドンハープーンを見つけて拾い上げた時に既にどうするか決まっていたのかもしれない…

『レナスの母に案内してもらう。』

 普通に案内してもらってもいいが、これはアクターとの約束を破る事になり兼ねない。
飽く迄『姿を確認する』だけだったのだから。まぁ、今更約束なんてどうでもいいかもしれないが…
それでもこの世界に居る以上、ここでの約束は破らないよう心掛けている。
とにかく、レナスの母・ミルヴァーナにポセイドンハープーンを渡し、仲間も全員そこに居るであろうレナスの病室に持って行くだろうから、その後に尾ける事にした。

 暫くして、アクターの執務室の前に辿り着いた。アクターはミルヴァーナの義父だが、実の息子よりも信頼・理解しているのでミルヴァーナの居場所を知るには アクターに訊くのが早い…というのが、ポセイドンハープーンからの助言であった。
 そして扉をノックする。
≪コンコン…≫

アクター:「?……誰だ、こんな時に………」

ミルヴァーナ:「お義父様、私が出ますわ。」

 丁度良い。ミルヴァーナもアクターの執務室に居た。恐らくレナスの事で何か話し合っていたのだろう。
扉が開く。
≪ガチャ、ギィ…パタン。≫

ミルヴァーナ:「はい―――あら?貴方は。」

芹雄:「どうも。昨日は―――」

ミルヴァーナ:「何方ですか?お義父様に何か御用でも?」

≪ズコ――――ッ!ゴチッ!≫

ポセ[……やはりな…]

 あまりの典型的なボケに必要以上にコケる芹雄。後頭部を地面にぶつける。ポセイドンハープーンは予想していたようだが。

ミルヴァーナ:「あらあら…頭は大丈夫ですか?

ポセ[…酷い言われようだな…]

芹雄:「…まぁ、なんとか。っていうか、覚えてないんですか?俺の事!」

ミルヴァーナ:「? あの…何処かでお会いしました?」

芹雄:「はぁ…もういいです。」

ポセ[こういう人だ。気にするな。もっとも、慣れれば気にならんが。]

芹雄:(そんなに長居するつもりは無い。あぁ、良く考えたら昨日自己紹介する前にどっか行っちゃったんだったな…でも顔くらい覚えといてくれよ…)

ミルヴァーナ:「それで…なにかご用でも?」

芹雄:「え?……あぁ!そうでした!ミルヴァーナさんを探してたんですよ。それで、アクターさんなら居場所を知っているのではないかと思いまして。」

ミルヴァーナ:「まぁ、そうでしたの。解りました、ではお義父さまに訊いて来ますね。」

芹雄:「あ、はい。すいません、御手数かけます…じゃぁお願いしますね………………えっ?

ミルヴァーナ:「いえいえ。それでは少々御待ち下さいね。」

≪ガチャ、ギィ…パタン。≫
 そして、で執務室に戻っていったミルヴァーナ。
呆気に取られる芹雄とポセイドンハープーン。

ポセ[…………………]

芹雄:「…………………」

ポセ[…今日は一段と天然さに磨きが掛かっているな。]

芹雄:(……思わずペースに乗せられてしまった。凄い人だな…ある意味。)

≪ガチャ、ギィ…パタン。≫

ミルヴァーナ:「お待たせしました。どうやらその方は『執務室』にいらっしゃるそうですよ。」

芹雄:「…………………」

ポセ[………………やるな。アクター殿。]

 どうやらアクターはノリで返したらしい。またも素で…いや、真に受けたミルヴァーナ。

芹雄:(変な神でも憑いてるんじゃないのか?…笑いの神とか。)

ポセ[…どうでもいいが、そろそろ本題に入った方がいいぞ。いい加減、怒るで、しかしぃ!]

芹雄:「で、ミルヴァーナさん、貴方に用事があるんですが――――」

ポセ[無視かい。]

 そこからポセイドンハープーンは語りを止めた。
というのも、芹雄がミルヴァーナにポセイドンハープーンを委ねたからである。

芹雄:「確かに渡しましたよ。」

ミルヴァーナ:「はい。どうもご足労をかけまして…有難うございました。」

芹雄:「いえ。それでは…」

 そして、背を向けて歩き出す芹雄。もう少し歩いてから、レナスの元に向かうミルヴァーナの後を追う、という考えである。
が。
≪ガチャ、ギィ…パタン。≫

芹雄:「へっ?」

 扉の開く音と閉まる音が聞こえ、それに反応して振り返る芹雄。
振り返った先には…誰も居ない。レナスの元に向かうミルヴァーナの姿も無い。
どうやら執務室に入ってしまったようだ。

芹雄:(な…っ!?ま、マジかよ…)

 執務室の前まで戻ろうと振り向いて、歩き出そうとした―――
≪ガチャ。≫
―――ところで扉が開いた。

芹雄:(ぶっ!?)

 慌てて振り返る。
≪パタン。すたすたすた…≫
 足音は遠ざかる…どうやら芹雄とは逆方向に歩いて行ってるらしい。芹雄は振り返って後を追う。

 しばらく追っていると、やがて1つの部屋の前に立ち止まって扉を開けようとしていた。

芹雄:(あそこがレナスの病室か…………ん?)

 しかし、何故か扉を開けずその場でその姿勢で止まっている…中の話を聞いてるのだろうか?

芹雄:(ポセ、伝わるか?芹雄だ。今どうなってるんだ?)

 ミルヴァーナの持っているポセイドンハープーンに心の声で語り掛ける。

ポセ[……レナスが目覚めた。]

芹雄:(な?……何ッ!?本当か?)

 驚くのも無理は無い。傷は塞いだとはいえ、あれほどのダメージと出血だったのだから。普通の人間なら最低でも五日は昏睡状態の筈なのだ。
それを1日も経たない内に目を覚ましたのである。

ポセ[…あぁ。全く信じられん…まぁ、ダメージは回復していないようだが。]

芹雄:(…だろうな。1日で目覚めただけでも凄いと思うぞ。)

ポセ[中から話が聞こえる……む!?どうやらレナスはポールを助けに行こうとしているらしい!]

芹雄:(無茶苦茶だな…まぁ、そうしない限りポールという男は助けられんだろうから気持ちはわかるがな。)

ポセ[どうにかレナスを止められないもの―――――]

ミルヴァーナ:「…あの子は本当に行ってしまうわ……止めないと……!!」

ポセ[!?…………]

≪ガチャ…ギィ……パタン。≫

 ミルヴァーナが動き出した。扉を開けて診療所の中に入って行った。
芹雄はミルヴァーナが中に入って扉が閉ったのを確認してから、サッとその扉の傍に移動した。
ふと扉を見る………

【ゲインズブール家専用診療所】

芹雄:(………………………)

 『ここは本当に判り易くていいなぁ』と、そんな心境であろうか?
それとも『作戦までたてたのに、こんな結末ありか?』だろうか…
…とにかく、無言で固まってしまった芹雄であった。

………………

レナス:「当たり前だよ! 行かないと…わたしの所為で人が一人死んじゃうんだよ!?」

 扉の向こうから聞こえて来た少女の悲痛な叫びで我に返る芹雄。

ミルヴァーナ:「レナス……あなたのその強情な所はシンにそっくりね…」

レナス:「な…っ! あの人は関係ないでしょ!?」

ミルヴァーナ:「駄目よ?自分のお父さんをあの人呼ばわりしたら。めっ!

芹雄:(『シン』『あの人』とは、レナスの父親の事か…それより…)

レナス:「『めっ!』って……そ、それよりも早く行きたいからそこを退いてくれる?」

芹雄:(『めっ!』って、いいトシした娘に使う言葉じゃないですよ、ミルヴァーナさん…)

 そういう問題だろうか…?

ミルヴァーナ:「嫌よ。」

レナス:「え…?」

ミルヴァーナ:「自分の子供が死にに行くのを黙って見送る親がいると思うかしら?。」

レナス:「だっ…だからってポールさんを見殺しにはできないよ!」

ミルヴァーナ:「今のレナスが行っても、結局皆殺されて終りよ? あなたの我儘でディオバーグさん達まで殺されてもいいのかしら。」

レナス:「…くぅっ…!!」

芹雄:(やれやれ。止まったか…しかし、流石は母親。強―――)

レナス:「なら………なら、わたし一人で行く!」

芹雄:(!?……おいおい、また無茶な事を…)

ディオバーグ:「お、おい!何を言ってるんだ!」

レナス:「わたしが一人でポールさんを助けてバニッシュクリスタルで帰れば、別にデスドラゴンと戦わなくても―――――」

ミルヴァーナ:「……わかった。」

愛蓮:「!……ミルヴァーナさん!?何を…!」

ミルヴァーナ:「でも行く前に一つだけ条件があるけどいいかしら?」

レナス:「うん!わたしにできることなら何でもするよ!」

ミルヴァーナ:「そう。なら……はい。あなたのポセさんよ。」

レナス:「……お母さん?」

芹雄:(………この展開はもしかして……)

ミルヴァーナ:「どうしても行きたいのなら……その前にわたしを殺してからにして。」

レナス:「な!?そんな事できるわけ無いじゃない!」

ミルヴァーナ:「レナス…あなたはわたしにとって命より大切な存在なの。そのあなたを失ったらその先到底生きてはいけないわ。だから……もしどうしても死にに行くと言うのなら、まずわたしを殺してからにして。」

ポセ[芹雄!まずい状況だ!止めてくれ!レナスはしないだろうが、この人なら本気で死にかねん!]

レナス:「お母さん……」

芹雄:(……はぁ…結局こうなるのね……スイマセンね、アクターさん。)

 そして、頭を抱えると同時にポリポリと掻いて、ドアの向こうに居るであろうレナスに大き目の声で言った。

芹雄:「俺が代わりに行ってやろう。」

レナス:「……誰?」

≪ガチャ。≫
扉を開けて診療所の中に入る芹雄。その芹雄をレナスはじっと見つめる……

芹雄:(ふっ…ちょっとキメ過ぎちまったかな…?)

ポセ[甘いぞ、芹雄…こやつはそういう人間じゃない。]

レナス:「えっと……似非(エセ)忍者?」

≪ガクッ!≫

 いきなりのご挨拶に少しコケる芹雄。そしてツッコミを入れる。

芹雄:「意味ありげに出てきた奴に対して開口一番それか!?」

…で、何故かそのツッコミに満足したのかレナスが頷く。

芹雄:(人が気にしてる事を………つーか、兜脱ぐの忘れてたのか…言われて当然だな……)

レナス:「それで……あなたは誰?」

芹雄:「ん…あぁ、そういえばレナスさんには自己紹介がまだだったな。君に会いにアクエルドにやって来た剣士だ。よろしく。」

レナス:「へぇ…わたしの事を知ってるんだ?」

芹雄:「君は他の大陸でも結構有名なんだ。齢16にして目覚しい活躍をしている戦乙女がいる、とね。」

レナス:「へぇ。そうなんだ。」

芹雄:「ま、それで君に興味が湧いたのもあって俺の仲間の修行中の間に立ち寄ってみたわけなんだが―――」

レナス:「ちょっと待った!」

芹雄:「ん?…どうした?」

レナス:「異大陸ってそんな簡単に行き来できるような場所じゃないと思うけど?」

芹雄:「! あ〜………まぁ、ここまで言えばバレるか…いいか、もう…それは『リンクゲート』を使ったんだ。」

レナス:「え!?あれって実在してたの!?」

芹雄:「…まぁ、そうじゃないと俺がここにいる説明がつかないだろう。別に幽霊とかじゃないしな。」

レナス:「まぁ、確かに芹雄さん程の実力の持ち主がアクエルドにいたら噂くらい聞くだろうからね。」

芹雄:「へぇ…?俺を見ただけで強さがわかるのか。」(レナスにもスーパー・アイが備わっているのか…?)

レナス:「デスドラゴンからポールさんを助けるとか言ってる人が弱いとは思いたくないだけだよ。」

芹雄:「…なるほど…言われてみればそうか。ごもっともです。」

レナス:「でも、いくら芹雄さんでも相手はデスドラゴンだよ?…大丈夫?」

芹雄:「まぁ、怪我人は大人しく待ってなさい。話はそれからだ。」

 そう言って診療室を後にする芹雄。

芹雄:(…まぁ、薬もあるし倒せない事も無いレベルだな。ここで倒す気が無いだけだが。)

 そんな事を考えながら歩み始める芹雄…だったが。

芹雄:(…!そうだ!今度はちゃんと言っておかなくては!)

 神速ダッシュでさっきの部屋に戻る芹雄。
そして、ミルヴァーナの目の前に立つと一言…

芹雄:「ミルヴァーナさん!今度こそちゃんとボクの自己紹介するのでよろしく!」

ミルヴァーナ:「………私にですか?」

芹雄:「そうです!いい加減憶えてもらいます!……それでは改めて。行って来る。」

レナス:「はいはい…いってらっしゃい。」

ミルヴァーナ:「あ。芹雄さん、待って下さい。」

芹雄:「はい?何か…?」

ミルヴァーナ:「初めて会ったあなたにこんな事を頼むのも申し訳ありませんが…ポールさんをよろしくお願いしますね。」

芹雄:(…………もうどうでもいいよ…)

 『本当はわざとなんじゃないのか?』と思うものの、ポセイドンハープーンが言う『こういう人だから』の言葉も思い出した結果。
『もうどうでもいいよ』という事になった。

芹雄:「任せてください!俺の手にかかればパッ!と行ってササッ!と助ける事なんて朝飯前ですから!ハッハッハ。」

ポセ[……壊れたか。]

ミルヴァーナ:「あら?でも……」

芹雄:「…ん?信じられませんか?」

ミルヴァーナ:「でも…もうお昼過ぎですよ?」

芹雄:「……???…………はい?」

 迂闊にもこの人の天然にはまってしまった芹雄。一瞬絶句し、そして訊き返した。

芹雄:「…あの…どういう意味ですか?」

ミルヴァーナ:「え?ですから、朝御飯どころか、もう昼食も済んでしまいましたが…」

芹雄:「…で、では夕飯前に訂正しておいてもらえると嬉しいです。ボク。」

ミルヴァーナ:「わかりました。それでは夕食を用意してお待ちしてますね。」

芹雄:「…わ、わは〜い!やった〜、楽しみだな〜。じゃ、行ってきま〜す!」

 そして今度こそ本当に診療所を後にした。
ふと、ポセイドンハープーンの声が聞こえたような気がした…

ポセ[……哀れな…]

 と……


 場所は変わって【雷鳴の峡谷】入口……いわばデスドラゴンの巣である。
ここまで来ると、さすがにさまざまな魔物の気配や鳴き声が聞こえてくる。

芹雄:(…ま、ここに居ても仕様がない。さっさと行くか。)

 そして峡谷の中に入って行った……被った黄金兜が光輝き闇を照らす。
マップを埋めながら進み、ついでに宝も頂戴して行った。まぁ、結果は二足三文と散々な物だったが…
地上最強モンスターの巣だけあり、強力なモンスターがいる……
と思ったが、そうでもなかった。強くてミノタウロス。他はトロール系、ゴーレム系等…大型モンスターは1体も出なかった。
まぁそれでも一般の冒険者からすれば強いのだが、芹雄ほどの能力があれば楽勝であった。
しかし、1グループだけ恐ろしいのがいた。ヴァンパイア×4。
討伐依頼にも出されるようなモンスターが四体グループを組んで襲ってくるのだ。普通の冒険者ならまず勝ち目は無いだろう。 理由は、こいつの使う全体火炎魔法だ。最も威力の低いファイヤータロットと同等だが、六回以上食らうとさすがに致命傷に至る。 討伐の時は手下は居てもヴァンパイアは1体しか出てこないのでそれほど脅威ではないのだ。しかし、それが四体……六人のパーティでも勝ち目は無いだろう。 しかし芹雄は違う。魔法防御も高いので火炎魔法の威力を半減できる。しかもこちらは一人。1体集中という事が出来ないので、やつらの放つ魔法は『単なる威力の低い攻撃魔法』という事になる。 そしてこちらには『忍の宝珠』がある。全体に物理攻撃の出来るアイテムである。下手すれば相手の攻撃魔法よりダメージを受けるが、『攻撃は最大の防御』…という事で。
 そして、奴等との戦闘が始まる…!

ヴァンパイアA:「フフフ……血だ…!血だ!!」

芹雄:(…相当飢えてる奴がいるな…ま、殺すからどうでもいいか。)

≪スラー……≫
 背負っていた降魔の利剣を鞘から抜く。

芹雄:「さぁ、掛かって来な。醜悪な化物供。」

ヴァンパイアB:「な…ん、だとぉ!?」

ヴァンパイアC:「どうやら死にたいらしいね…」

ヴァンパイアD:「血を抜いて殺すだけじゃ面白くない…意思を持たぬ骸骨剣士デュラハンにし、下僕として扱使ってやろう。」

芹雄:「あぁ…もうごちゃごちゃと煩いゴミだなぁ…さっさと掛かって来いよ。来ないならこっちから行くぞッ!」

≪シャッ…ビシュッ!バシュッ!≫

 素早い芹雄がヴァンパイアに二連撃を浴びせる。モロに斬撃を食らい血を流すヴァンパイアA。

ヴァンパイアA:「……フフ……やはり私の血が最も美しい…」

芹雄:「ハッ…醜いだけかと思ったら頭もおかしいのか、お前等。」

ヴァンパイアB:「……もう殺す!! …はァッ!」

≪ゴォォォォッ!!≫

 芹雄の足元から物凄い勢いの炎が吹きあがる。どうやら四匹同時に放ったらしい。かわす事は出来ない。
やがて魔力で作られた炎は消え失せ、そこに芹雄が姿を……見せない、いや居ない。

ヴァンパイアC:「おやおや、呆気ないね。もう灰になってしまった。」

ヴァンパイアD:「……この程度か……………む!?」

芹雄:「遅い。」

≪ズババババッ!≫

 芹雄は火柱が上がった時に忍の宝珠を使っていた。神速を超えるスピードで敵の死角に移動し、そして斬りかかった。

ヴァンパイアA:「ゴフッ……ふ、フフフ……最後に…己の血を啜る事になろうとは…」

≪ドフッ、バサァ…≫
 ヴァンパイア1体は灰となって消滅した。

ヴァンパイアC:「あぁッ!?ヴァンパイアA(仮)――――!!!お…おのれ…許さん!」

芹雄:「『ヴァンパイア=エー=カッコカリ』?凄い名前だな。」

ヴァンパイアC:「黙れぇ!…………はっ…」

芹雄:「だから遅いんだよ…次はお前が死ね。」

≪ザンッ、ゾブッ……≫

 降魔の利剣で袈裟斬りにされ、更に心臓部を貫かれたヴァンパイアB。

ヴァンパイアC:「ぐあああぁぁぁぁぁ!」

≪バサァ…≫
 そして二体目も灰になった。

ヴァンパイアB:「くっ!…何者だコイツは…我らを凌駕する能力を持つ人間…そんな者が存在するのか…」

芹雄:「そらそら。考え事してる暇なんて無いぜ。」

ヴァンパイアB:「!!!」

 そして更に他のヴァンパイアに襲いかかる芹雄……だが。

≪ゴォッ!≫

芹雄:「!?……チィッ!」

 いつの間にか姿を消したなと思っていたヴァンパイアDが背後から炎を放って来た。
四人同時のような勢いは無いので軽いダメージで済んだが、それ以上に攻撃を止められてしまったのが痛い。

芹雄:「ふん…なかなか冷静な判断だ。少し驚いたぞ……だが。」

 再び攻撃を開始する芹雄。

ヴァンパイアB:「!!!」

≪ゴォッ!≫

 反射的に魔法を放つヴァンパイアB。

芹雄:「今更遅い。」

 放たれた炎を避けようともせず、そのまま突っ込んで行った。
≪ビッ!バシュッ!…サァァ…≫
首を撥ねられ、声を発するまでも無く灰となって消滅した。

ヴァンパイアD:「………化物め……!」

芹雄:「心外だな。お前等から化物呼ばわりされるとは…まぁいい。どうせ消える定めだ。罵るだけ罵るがいい。」

ヴァンパイアD:「くっ!………おおおぉぉぉ!」

 決死の覚悟で突っ込んでくる。

芹雄:「フッ…心意気や良し。その覚悟と度胸に免じて一撃で仕留めてやろう。痛みも感じる事はない。」

 そう言うと、持っていた数珠のような物を爪で弾き回転させ、黄色い宝珠を上に持って来る。
緑色の珠『忍の宝珠』に対しこの青い珠は『武の宝珠』といい、同じく体力を消費するが攻撃力を倍にする力が使える。
これを掲げ芹雄は言う―――

芹雄:「我は武の達人なり!我はその奥義にて、彼の者を滅せし者なり!武の宝珠よ、我の呼掛けに応えよ!」

≪カァァ………ッ!≫
 芹雄の言葉の後、輝き出す青い宝珠……

芹雄:「受けよ…奥義!『ディストーションクロススライサー』ッ!!

≪ピシュピシュッ!≫
 芹雄の瞬時の斬撃により最後のヴァンパイアの身体は×字に斬り刻まれる…

ヴァンパイアD:「ぐあぁっ………!……? なんだ…?痛みを感じ無――――ぃッ!!!」

 ヴァンパイアDは斬られた筈の場所を確認する…と、しっかりその痕が刻まれている。しかも白い光を放ちながら…

芹雄:「帰るがいい。歪より生まれし者よ…」

≪ギュアァァァ!!≫

 ×字の痕から凄まじい光が放たれる。そして生じる力の歪……その歪に飲まれるかの様に吸い込まれて行くヴァンパイア。

ヴァンパイアD:「!?……うっ…………ぎゃあぁぁぁぁぁァァァァ………」

 やがて、その場には3箇所に積まれた灰と大量の金貨だけが残った。当然戦利品なので頂戴する芹雄。
恩恵札で回復した後、再び探索を開始する芹雄だったが、細い通路に入ろうとした時、立ち止まる。

芹雄:(物凄い気だ…!恐らくこの先には奴が居るのだろう…だが、行く事は出来ないな。)

 この世界の重要な出来事には関与しない事にしているので、デスドラゴンと戦うことは控える。

芹雄:(しかし一通り回ったが、牢屋とかそれらしい部屋は無かったけどな…仕方ない…アレを使うか…)

 ポールという当初の目的が見つからなかったので、いよいよダンジョンレーダーの登場だ。

芹雄:「こういう単純なダンジョンで、これはあんまり使いたくないんだが…」

 思い切ってボタンを押し、魔力を込める。
≪カシッ…ギュイン!≫
音と同時に、大量の魔力を吸い取られる。だが、このダンジョンの地図が表示された。

芹雄:「っ!相変わらず魔力を吸うアイテムだな。ま、そんな事より…と。」

 扉も無いのに壁の向こう、地図の埋められていない部分に表示された二つの点。緑の点は敵。黄色の点は宝、もしくは囚われの身の人間である。
とりあえず思い当たる点はそこしかないようなので早速行ってみる。

芹雄:「ふむ…ダンジョンレーダーによるとこの辺りが怪しいな。」

 マップで白い枠で囲まれた壁…その壁の前にやって来た芹雄。この壁には皹のような跡がある。その皹に触ろうと手を伸ばす……

[スカッ]

芹雄:「ふむ…やはりな。ここが隠し部屋になっていたのか。」

 壁に見える通路を抜け、隠し部屋に入る。その先にあった光景は正に『牢獄』であった。
芹雄に気付いて、1グループのモンスターが凄い勢いで襲い掛かって来た。ここの見張りであろう…
とても避けられるような勢いではない…意を決し、待機して戦闘に備える。
 そして、そのモンスターとの戦闘が始まる……ドラゴニュートが5体。

ドラゴニュート:「キシャ―――――ッ!!」

芹雄:(っンだよ!またザコか。)

 いい加減うんざりのようだ。スッと懐から数珠状になった宝珠を取り出し、忍の宝珠を掲げる。

芹雄:「雑魚は大人しく引っ込んでな…」

≪カァァッ!ブンッ……ザシュビシュバシュザシュズバァッ!………ドサドサドサドサドサ…≫

芹雄:「っ…ふぅ……ウザ…」

 一瞬でカタをつける。そして、奥の鉄格子の前に行く。

芹雄:「…アンタがポールか?」

ポール:「……誰、だ・・・?玲奈、達では・・・ないよう、だが・・・

芹雄:「レナスの代理であんたを助けに来た者さ。」

 返答と、仲間の玲奈という名を聞いたのでポールだと確認。
しかし…これが捕らえた人間に対するモンスターの仕打ちか…
デスドラゴンに負わされたであろう傷と火傷は完全に無視され、かなり酷い事になっている。
食事も当然与えられていないだろう。元・力のマスター(武の達人)とは思えない程憔悴し(痩せ衰え)ていた。
このまま放っておくと確実に死ぬであろう…いや、普通の人間なら疾うに死んでる程の重傷である。レナスに助けると言った以上この男を死なせる訳には行かない。 兎に角ここから救い出し、治療をしなければ…

芹雄:「ちょっと待ってな………はッ!」

≪スラー……シッ!…ピキンピキンピキンピキンピキン……カランカランカランカランカラン……≫

 取り敢えず、ポールが出られる程の大きさに格子を切り倒した。

ポール:「……大した腕、だな・・・鋼鉄の、格子を・・・切裂く、とは・・・

芹雄:「まぁ、自慢じゃないが腕には自信がある。あとはこの剣のお陰か。」

ポール:「……てっきり・・・錠を・・・外す、と・・・思っていたが・・・

芹雄:「えっ…?」

 芹雄が『えっ?』と言った。戸に気付かなかったようだ。

芹雄:「ま…まぁ、こっちの方が派手でいいだろ?」

ポール:「……そういうことに・・・しておく・・・

芹雄:「とにかく怪我人は黙って――――」

 と、芹雄がポールを担いで脱出しようとしたその時…

???:[お前か。我が住処で暴れている輩は…]

 頭の中に重い声が響いた。

芹雄:(…デスドラゴンか。この世界の最強モンスターは喋るというのは本当だったか…で、今回は思念だけをこちらに飛ばしてきているんだな。)

デスドラゴン:[その者は大事な人質だ。死にたくなければ大人しく返してもらおうか。]

芹雄:(ふ……伝説の四竜のする事とは思えないな。)

デスドラゴン:[………何だと?]

芹雄:(知恵ある竜よ。お前の望む事はこの者を殺す事でも、俺と戦う事でもない筈だ。)

デスドラゴン:[……ふむ…]

芹雄:(お前の望む事はレナス達を待ち、彼女らと戦う事の筈だ!今レナスは修行中に怪我をしてここに来られる状態ではない。 つまり不完全な状況だ。碌に戦闘も出来ない。お前はそんな彼女と戦って勝って本望なのか?)

デスドラゴン:[確かにそれはつまらぬな。あれは久しぶりに我を楽しませてくれる貴重な存在だからな。]

芹雄:(お前も心行く勝負がしたいのなら人質を取るなどつまらん真似はするな。 それに、この者を解放したからといって彼女らはお前と戦う事を止めたりはしない。)

デスドラゴン:[…よかろう。その者を連れて行くがよい。]

芹雄:(彼女たちは必ずここに来る…以前より格段に強くなった彼女がお前を倒す為にな…)

デスドラゴン:[ふ…楽しみにしておるぞ。]

芹雄:「バニッシュクリスタル!」


 雷鳴の峡谷脱出後…ポールを連れてフェンリルの地下施設へと戻った芹雄。
ポールは仲間の玲奈とリーナに介抱されている。多少の傷は芹雄が治したのだが。
玲奈が頻りにポールに声を掛けている…というより謝っている様だ。ポールもそれを宥める。

レナス:「あなたには一つ借りができちゃったね。芹雄さん。」

 元マスター達を眺めていると、レナスが話かけてきた。

芹雄:「ん?…あぁ……まぁ、それは後で体で―――――」

レナス:「はァ?」

 急に話し掛けられて思い付かなかったので冗談で言ったつもりだったが、思いっきり殺気を放ちながら訊き返された。

芹雄:(ふ…)「いーや!何でもない。まぁ、気にするな。俺に出来る事をやったまでさ。」

レナス:「とりあえずまた何か困った事でわたしにできる事があればいつでも手伝うよ。」

芹雄:「それはありがたいな。ま…機会があればよろしく頼む。」

レナス:「オッケー!」

芹雄:「取り敢えず、今の君に必要なのは療養だ。安静にして体力を回復させる事を第一に考える事。いいな?。」

レナス:「了解!」

芹雄:「うむ。良い返事だ。……じゃぁ、俺は行く事にするよ。ゆっくり休みな。」

≪ガチャ…バタン。≫
 診療室から出で酒場に行こうとその方向に向く芹雄。と、そこでミルヴァーナと偶然鉢合わせになり、ぶつかりそうになった。

芹雄:「おっと…申し訳ない、注意不足でした。」

ミルヴァーナ:「いえいえ。それより芹雄さん。丁度良かったわ。」

芹雄:「はい?なんでしょう。」

ミルヴァーナ:「ポールさんを救い出して頂いて、本当に有難うございました。」

芹雄:「いえいえ。言ったでしょう?朝―――夕飯前だって。」

ミルヴァーナ:「そうでしたね。ご苦労様でした…あ、それでですね。お腹ペコペコでしょう?お夕飯が出来てますからいらしてくださいな。」

芹雄:「え?本当に作ってくれたんですか。」

ミルヴァーナ:「ええ、勿論ですよ。信じてましたから…」

芹雄:「え…?いや、あはは。これは困ったな…」(そういう意味で訊いたんじゃないんだが…)

ミルヴァーナ:「ふふ…さぁ、こちらです。」

 そして歩き出す二人。
辿り着いた先は…またもゲインズブール家専用だった。今度は食堂だったが。
中に入って、席に案内されたので、その椅子に座る。しばらくすると厨房に消えたミルヴァーナさんが料理を持って来てくれた。

芹雄:「おぉ〜!う、美味そぅ〜!!」

ミルヴァーナ:「どうぞ。いっぱい作りましたから沢山召し上がって下さいね。」

芹雄:「はい!頂きま〜………って、あの…俺一人ですか?」

ミルヴァーナ:「ええ。今日は芹雄さんが英雄ですからその御持て成しをしなければいけませんからね。」

芹雄:「そ、そんな。ここまでして頂くような事はしてないですよ。」

ミルヴァーナ:「これはレナスやお父様…あと、レナスのお友達からの感謝の気持ちも入ってますから。…当然私からも。」

芹雄:「そうですか…では、ありがたく頂かないと反って失礼ですね。じゃぁ、遠慮無く頂きます!」

ミルヴァーナ:「はい。どうぞ召し上がれ。」

 そして、芹雄は色んな人の感謝の気持ちを噛み締めながら美味い料理を頂いた。
ミルヴァーナさんはお嬢さん育ちでここでもそれなりの暮らしをしている筈だが、中々如何して。料理が上手い。
冒険後の疲れを考慮してか、軽くてアッサリしたものから始まり、体力のつく料理まで作ってくれた。
芹雄は大量に作られたその料理を見事食い尽くした。
最後に出されたお茶を飲む芹雄。

芹雄:「………んぐっ、ぷはぁ〜…美味かった〜…ご馳走様でした。いや〜、幸せな気分だ。」

ミルヴァーナ:「ふふ…お粗末様でした。満足して頂けました?」

芹雄:「ええ。そりゃぁもう。ミルヴァーナさんの為に頑張った甲斐があるってもんです。」

ミルヴァーナ:「…?あらあら、私の為にですか?」

芹雄:「えぇ。そうですよ。」(こうでもしないと名前覚えてもらえそうに無いからな…この人の場合。)

ミルヴァーナ:「そ…そうなんですの?…えっと…じゃぁ、私から何かお礼をしなくては…」

芹雄:「えっ?…いやいや。もう料理だけで十分ですよ。」

ミルヴァーナ:「いえ、そういう訳には参りません。……そうだ!芹雄さんは今何か所望しているものはありますか?」

芹雄:「えぇっ!?…いや、ホント。もう十分ですって。」

ミルヴァーナ:「私は構いませんから、何か仰って下さい。」

 そう言ってにじり寄って来るミルヴァーナ。

芹雄:(う…どうしたものか……そうだ!レナスに使ったあの手を…)

ミルヴァーナ:「さぁ。どうぞ。」

芹雄:「…じゃぁ、今夜、俺の相手をしてもらおうかな?」

ミルヴァーナ:「………えっ?」

 暫く固まってしまうミルヴァーナ。
まさかそう来るとは思わなかったのであろう。当然だが。

芹雄:「な〜んて―――――」

ミルヴァーナ:「わかりました…芹雄さんがそう仰るなら……」

芹雄:「冗だ………って、えぇぇぇぇ〜〜〜〜〜っ!?ま…マジッスか!?」

ミルヴァーナ:「…ハイ・・・

 そして小さく頷いた……


 コレは一体どうした事なのか!?この展開はもしや――――――!?
い、いや…そんな筈は無い…ここは健全なサイトの筈!
次回、変な期待はせずに…待て!


第二十二章

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