ルナティックドーン 前途への道標
〜剣士【芹雄】の冒険記〜

〜 第二四章 〜

手合わせ



 芹雄が『アクエルド』に来て25日、四週間が経とうとしている。そろそろ藍玲・ファンチーヌ・奈香の修行も終っている頃だろう…
丁度いい時期である。最早この世界に来た理由・目的は果たした。そもそも長居し過ぎだろう。本当ならレナスに会った後帰るつもりだったのだから…
酒場で朝食を済まし、酒場のマスターに挨拶する。

芹雄:「マスター、俺、元の世界に戻ろうかと思う。」

マスター:「…そうか、帰るのか。長かったような短かったような…」

芹雄:「世話になったな。それじゃ。」

マスター:「おう、向こうでも元気でな。」

 そして、酒場を後にした。次はアクターの執務室に向かう。
≪コンコン≫

アクター:「入れ。」

≪ガチャ…≫

芹雄:「失礼します。」

アクター:「おお、芹雄じゃないか。どうした?」

芹雄:「えぇ、実は『バイラーダス』に帰るので挨拶に。」

アクター:「む?そうか…やはり帰るのだな…」

芹雄:「えぇ。…御世話になりました。」

アクター:「何を言う。世話になったのはこっちの方だ。レナスの事では本当に世話になった。礼を言うぞ。」

 席から立ち上がり芹雄に向かって深深と頭を下げる。

芹雄:「いやいや。俺からすればそんな大した事はしてないからどうかお気になさらずに。」

アクター:「まぁとにかく…御主はサランドンを救った英雄なのだ。また…時間があればこちらに遊びに来てくれ。」

芹雄:「そうですね、いつか時間が空いたらまた来ようと思います…それでは。失礼します。」

 執務室を後にした芹雄は次にレナスの部屋に向かった。

芹雄:(…さてと。もうレナスに挨拶して帰るとするか…)

 レナスの部屋の扉の前に来て、そう思った後ノックする。
≪コンコン…≫

???:「は〜い。どうぞ〜。」

芹雄:(あれ?この声…似ているがレナスじゃないな……ということは…)

≪ガチャ…≫

芹雄:「こんにちは。ミルさん。」

ミル:「あら?芹雄さん。どうかしたんですか?……あ、レナスに用事ですか。」

芹雄:「ええ、まぁ。でも丁度いいや。ミルさんにも用事が出来ましたから。」

ミル:「え?私にもですか?…何かあったのですか…?はッ!?もしやあの噂…本当なのですか!?」

芹雄:「噂?………!?ちッ、違―――」

ミル:「そうなのですね…?『目を付けられた女性を攫っては狭い小屋に拉致し、散々弄んで犯し抜いた後人買に売り飛ばす』という……」

芹雄:「わ"――――!!!全ッ然違う!!噂の内容からして違う!!っていうか、どうやったらこういう風に伝わるんだ!?」

ミル:「私には夫と娘が居るんです……どうか、どうか見逃して下さい!……はッ!?もしや、レナスも…」

芹雄:「だから違いますって!!そんな事しませんよ!!」

ミル:「……え?あ、そうなんですか?あぁ、ビックリしましたわ。」

芹雄:「で、ですね…そろそろ帰ろうと思ったので皆に挨拶居して回ってるんですよ。」

ミル:「そうですか。ご苦労様でした。」

芹雄:「…それだけ?」

ミル:「…? 他に何か?」

芹雄:「あ〜!いやいや、何でも無いです。それでは、御世話になりました。」

ミル:「はい。さようなら。」

芹雄:「あ、っと。最後にひとつ訊いても良いですか??」

ミル:「…?ええ、いいですよ。なんでしょう。」

芹雄:「レナスさんは今何処にいらっしゃるんですか?」

ミル:「レナスですか?…うーん、たぶん…訓練場にいると思うんですが…判りませんけど。」

芹雄:「そうですか、有難うございます。一応行ってみます。それでは、御元気で…」

ミル:「!? あの…もしかして『帰る』と言うのは元の世界に、なんですか?」

芹雄:「? そうですよ。ですからもう会えないかもしれないんで、挨拶に回ってるんですよ。」

ミル:「そんな…いきなり帰るなんて言われても…何も準備できてませんよ…」

芹雄:「あぁ、お気遣い無く。そういうの嫌いなんで。かと言って黙って帰るのも気が引けるんで、直前に言うようにしたんですよ。」

ミル:「はぁ…判っていたなら芹雄さんに御馳走を作って差し上げられたのに…」

芹雄:「あらら、それは残念だなぁ…ミルさんの料理は美味しいからな…でも、もう決めた事ですから。」

ミル:「そうですか…仕方ありませんね…」

芹雄:「ええ。それじゃ、このへんで…」

ミル:「芹雄さん……お元気で…」

 そして、ミルヴァーナと別れ、訓練所に向かう芹雄。その途中、見覚えのある三人組に遭遇した。
……元マスターズ、敏捷の『玲奈』・知性の『リーナ』・力の『ポチョムキン』…もとい、『ポール』だ。

玲奈:「芹雄。アクターさんから聞いたわよ…元の世界に帰るんですって?」

芹雄:「お?もう身体は大丈夫なのか?」

玲奈:「え…えッ?心配してくれるの?嬉しい…大丈夫よ!疲れただけなんだから。」

 と、何を勘違いしているのか顔を紅潮させ、クネクネした奇妙な動きで返答する玲奈。
おまけに質問に答えてない事も忘れている

芹雄:「疲れ…? あの時のポールって疲れてただけなのか?」

玲奈:「な"っ……?……ポール?」

リーナ:「…相変わらず玲奈は冷静さに欠けてますね。」

ポール:「あいつらしいと言えばらしいんだがな。」

玲奈:「そこの二人!聞こえてるわよ!」

リーナ:「あらら…でもまぁ、聞こえるように言いましたからね、当然ですね。」

玲奈:「くキ―――――――ッ!」

芹雄:「……で?オッサン、もう動いてもいいのか?」

ポール:「あぁ、貴殿のお陰で命拾いをした。礼を言う。」

芹雄:「へッ!礼なんて要らんさ。別にアンタの為にやったんじゃねぇしよ。それに男から言われてもキショイだけなんでな。 ま、命が助かって動けるようになったらそれでいいんだよ。」

ポール:「そ、そうか…(えらく話し方に差があるな…)」

芹雄:「リーナさんも大変ですねぇ…色々と大変でしょう。」

リーナ:「あら、解りますか?そうなんですよね…特に玲―――

玲奈:「リーナ!!…ったく…で?いつ帰るのよ。」

芹雄:「ん…? 今日だけど?」

玲奈:「そっか。じゃぁもう少ししか……って、今日!?」

リーナ:「あらあら…では今の内にお願いしておかないと駄目なようですね…」

ポール:「ふむ…仕方なかろう…」

芹雄:「? 何の話だ?」

玲奈:「芹雄…悪いんだけど帰る前に私達と一度手合わせして欲し――」

芹雄「断る!!!」

玲奈:「――いんだ…け…どって、最後まで聞いてから応えてよ!っていうか、駄目なの!?」

芹雄:「…と、思ったけどまぁいいかぁ。もうちょっと時間あるしな。」

ポール:「感謝する…では、あの訓練所で戦ろう。」

芹雄:「オッケー。まぁ、何処でもいいケドな。」

 そして、場所を訓練所に移した芹雄とアクエルドの元マスター達。
そこには先客が居た。と、いっても十数人程の冒険者達で、特に知ってる顔触れは居ない。
どうやらミルヴァーナの予想は外れたようだ。レナスは居なかった。
元マスター達はその冒険者達に断りを入れに先に入って行った。
何か2・3言話すと、冒険者達はこの場から出て行って、訓練所は広めの試合場になった。
ポールは扉を閉め、完全に外からこちらの様子が窺えなくなった。

芹雄:(ふむ…まぁ、この程度の大きさならかなり大きく動いても大丈夫か…)

玲奈:「さ。場所も確保したし、そろそろ始めましょうか…準備はいい?芹雄。」

芹雄:「あぁ。完璧。」

リーナ:「では、誰から行きますか?」

芹雄:「あーっと!ちょっと待ってくれ。1つ提案があるんだ。」

ポール:「…提案?」

芹雄:「3人同時に戦うってのはどうだ?俺対あんた達3人。」

玲奈:「…えらくナメられたものね…今は違うとはいえ、元・マスターが3人よ?さすがの芹雄でも…」

芹雄:「…正直、判らないな。ただ、今回は降魔の利剣も使うし、本気で行く。今の俺の本気の力がどれほどの物なのか試して見たいんだ。」

リーナ:「…いいでしょう、お相手致します。二人とも、いいですね?」

玲奈:「仕方ないわね…いいわ!その自信、打ち砕いてあげる!」

ポール:「恩をアダで返すようで悪いが、ここまで言われて黙ってはいられんのでな…こちらも本気で行くぞ!」

芹雄:「あ、もう1つ…全員にそれぞれの宝珠を渡しておく。」

リーナ:「……3人のマスターを相手にするんですよ?…大丈夫なんですか?」

芹雄:「負けたら負けたでそれでいい。始めてくれ。」

玲奈:「死んでも知らないわよ………っ!」

 そして戦闘は始まった。まず動き出したのは玲奈。喋りながら一気に間を詰め、修羅刀で芹雄に斬りかかる。
≪シャッ!ピッ…≫
しかし、芹雄は軽く身体を動かす程度でその攻撃をかわす。そして芹雄が動く。一直線にポールに向かう。

玲奈:「あっ…!?」

芹雄:「…はッ!」

≪シャウッ!ガィン!≫

 芹雄の攻撃はポールの持つ明光鎧にヒット。意外に重い衝撃に一瞬怯むポール。

ポール:「むッ…! ……おぉりゃぁ!」

≪ゴゥヮッ!ズガァァァン!!≫
 しかし、ハンマーで叩きつけた場所に地面以外の物は存在しなかった。

芹雄:「…無駄だ、そんな重い武器では俺に当てる事は出来ないぞ…せいッ!」

ポール:「うっ!!」

リーナ:「――――の者を討て!ライトニング!」

≪ズバッ…シャーン!≫
 閃光が芹雄に直撃する。しかし、何事も無かったかのように動き続ける芹雄。

リーナ:「そ、そんな!?直撃したのに!?」

玲奈:「てゃぁぁっ…!」

≪ガッ!≫

 玲奈の振り下ろした修羅刀は芹雄の方にヒットした。しかし、黒装束に見えるその服は異様な硬さを誇った。

玲奈:「当た…?…っ!?これは…!【忍の装束】!!」

リーナ:「なんですって…!それじゃ、魔法が殆ど効かない…!」

ポール:「クッ…!だから物理的威力重視の俺を最初に狙ったのか!」

芹雄:「正解…だが、今更気付いてももう遅いけどな…」

≪ガシィッ!≫
 ポールは明光鎧を着けているのでかなりの防御力を誇る。しかし芹雄は持ち前の筋力と武器の攻撃力でかなりのダメージを与え、敏捷を加えて攻撃回数を増す…
ポールの残りの体力は既に3割を切っている。

ポール:「ちぃぃっ…!!まだだ!…武の宝珠よ、我の呼掛けに応え、その力を示せ!そして彼者を討ち臥せる力を我に!」

 次の瞬間、ポールの背後に数倍の大きさのポールが背後霊の様に立ち、ポールの動きに合わせて武器を振り被った。
ドンッ!ガギャッ!!――――ドゴォッ!…ガラガラ…≫
 あまりの超威力に壁まで吹っ飛ばされた上、背中を強打したようだ。壁も少し破壊された。
≪ガクッ…≫

ポール:「くっ…はぁ…はぁ…」

リーナ:「決まったわね…やはり3対1では―――」

玲奈:「……まだね。」

リーナ:「えっ―――」

≪シャッ!≫

 玲奈は既に動き出していた。芹雄が倒れているであろう、まだ埃が立ち、曇っている場所に…しかし。

玲奈:「! いない!?」
≪パアァァァ……≫

 玲奈がその場所に着き、芹雄が居ない事を確認した瞬間…全くの逆方向、ポールの背後で回復の光――

玲奈:「!?」

 玲奈に遅れて後の二人も気付くが…
≪ガツッ!≫

ポール:「――っ!…か、は…」

玲奈:「ポール!」

リーナ:「そ、そんな…」
≪ドッ…ドサぁ…≫

 膝から落ち、前のめりに倒れ、ポールは動かなくなった。

玲奈:「ちぃっ…リーナ!知の宝珠で援護して!」

リーナ:「え……ええ!判ったわ!」

 玲奈は相変わらず芹雄に向かって攻撃を繰り返す。しかし、リーナはその場に留まり、何か呟いては知の宝珠を輝かせる。
段々と…玲奈の攻撃が激しくなり、威力も増す。知の宝珠の力が表れ始めた。
この効果は本来『ウインドクリスタル』『ハイパワータロット』でしか効果を表さない現象だ。 つまり…戦闘を有利にするあらゆる魔法が使用できるアイテムなのである。
玲奈の激しい攻撃にリーナの攻撃魔法が追加され、多少押されがちになる芹雄。恩恵札でなんとか持ち堪えている…という感じだ。

玲奈:「どう?芹雄。強くなった今の私を倒せるかしら?」

芹雄:「ふん…どうせ魔法の力で得た紛い物の強さだろうが。」

玲奈:「なッ!?……ふふん…強がって居られるのも今の内よ…」

 芹雄の発した言葉に反応して、忍の宝珠を取り出した玲奈。それを見たリーナも反応した。

リーナ:「いけない…!玲奈!落ち着きなさい!」

玲奈:「大丈夫…ワタシは冷静よッ!」

リーナ:「…全然落ち着いた様には聞こえないわよ……」

 と、リーナは呟いたが…………

玲奈:「忍の宝珠よ…今こそ我にその秘めたる力を示せ!」
≪フっ……≫

 一瞬…玲奈の姿が消え―――
≪ザシッ!≫

 芹雄を斬り付けた瞬間に姿を現し、次の瞬間には再び元の位置に戻っていた…

玲奈:「ふ……どう?これが敏捷のマスターの力よ!」

芹雄:「……まだそいつの真の使い方を知らんようだな…」

玲奈:「な!?…負け惜しみかしら?」

芹雄:「……で?もう終りか?」

玲奈:「フン!…リーナ!一気にカタをつけるわよ!」

リーナ:「え?……ちょっと!…」

玲奈:「はぁぁ…!」

 玲奈は再び宝珠の力を使い、責めてくる。リーナも宝珠で援護と攻撃を繰り返す。芹雄は防御しつつ体力が無くなれば恩恵札で回復する―――

玲奈は相変わらず突っ走って、宝珠に体力を吸われ危険な状態まに陥るが、リーナに回復してもらっていた。

玲奈:「あ…ごめん、リーナ。助かったわ。」

リーナ:「だから落ち付きなさいと言ってるでしょう!しっかりしなさ――うッ、く……」

 叫んだ後、リーナが頭を押さえ、よろめいた。

芹雄:「!」 (来た!)
≪ヒュッ…≫

玲奈:「!? リーナ?ちょっと…どうしたの!?」

芹雄:「このあいだのお前と同じ状態だよ。違う点は尽きたのが『体力』では無く『魔力』っていう点だが。」

玲奈:「え…? っ!!」

 リーナを心配してそっちに気を取られてる隙に間を詰められていた玲奈。話しかけられて振り向くと芹雄が立っていた。

芹雄:「悪いが……終いだ!」

≪フォッ…≫
 芹雄の半身は右足と共に退かれる。左足は軸足となるべくしっかりと踏み留められ、芹雄の視線はこめかみの辺りに向いている。

玲奈:(上段回し蹴りで来る――)
ヒュッ!

 玲奈はしゃがんで芹雄のハイキックをかわす。そしてその隙に相手の背後に回るべく、その無理な姿勢のまま前進する…判断は間違ってない様に見えた…
≪ピタッ。クン…≫

芹雄:「…甘い。」
≪シッ…≫

 空を切った筈の芹雄の右足は、避けられた後、すぐに止まり、方向を変え、無防備になった玲奈の背中に―――
≪ドゴギャッ!≫
 ――落とされた。完全にクリーンヒットした。数本、骨が折れたかもしれない。

玲奈:「―――っっっ!!!」
 声にならない悲鳴を上げ、ぐったりとし、そのまま動かなくなった。

芹雄:「2人目…っと…いや、もう3人倒したも同然か。」

 リーナに近付いていく芹雄。リーナは抵抗することも無く……いや、出来ずにじっと芹雄を見ていた。

芹雄:「まだやるかい?」

リーナ:「まさか…宝珠の使い過ぎで魔力が無くなった事、判ってらっしゃるんでしょう?…我々の負けです。」

芹雄:「…はい。お疲れ様。」

 こうして、神を越える者対達人の戦いは終了した。



 戦闘が終り、恩恵札で治療していると2人が目覚める。そして、少し話をする。

玲奈:「………あ〜ぁ、やっぱり勝てなかったかぁ…」

ポール:「しかし、凄いものだな…ここまで差があるとは。異世界と言うのはそんなに凄い所なのか?」

芹雄:「え?…いやいや、そういう訳じゃない。俺が強過ぎるんだよ。」

玲奈:「よくそんなこと平気で言えるわね…でも芹雄だと……… いえ、やっぱりそう平然と言われるとアンタでもムカツクわ。」

芹雄:「…まぁそう言うな。俺とあんた達とは明らかに違う点が1つあるんだよ。」

リーナ:「違い…ですか?」

芹雄:「あぁ……限界突破だ。」

ポール:「限界突破?……ということは、あなたは神の試練を…!?」

芹雄:「あぁ、全てクリアした。」

リーナ:「なんてこと…それでは勝てなくても道理、というものだわ…」

玲奈:「え?…え?」

芹雄:「……ここに一人だけ判ってない奴がいるぞ。」

玲奈:「うぅ…芹雄、ひどいよぉ…」

芹雄:「何故に遥!?」

リーナ:「はるか?」

芹雄:「なんでもない…」

ポール:「まぁとにかく、芹雄は我々よりも能力を引き出す事が出来る…と言う訳だ。装備も完璧。勝ち目は無い、に等しいだろうな。」

リーナ:「芹雄さんが凄い事はこれでハッキリしましたね。」

玲奈:「っていうかさ、これだけ強いんだったらデスドラゴン倒せるんじゃないの?」

芹雄:「…そういう事をマスターが言うんじゃない。」

玲奈:「え?」

芹雄:「あのなぁ……俺は異世界の人間だ。だから、この世界の出来事に関与してはいけないんだよ。」

リーナ:「そうね…この世界の秩序を乱されるのはさすがにいい気はしませんね。」

芹雄:「と、言う訳だ。そして、もう目的も済んだ。」

 玲奈達3人のマスターの治療が終り、いよいよレナスに会いに行こうと立ち上がる。

芹雄:「さてと…そろそろ俺行くわ。」

玲奈:「あ…」

ポール:「そうか。元気でな。」

リーナ:「お元気で…あ、そうだ。これを使ってくださいな。」

芹雄:「ん?…あ、これは『リメディパウダー(全快薬)』……有難う。早速戴きます。」

リーナ:「はい、どうぞ。これくらいしか出来ませんので…」

 白い粉末を一気に口の中に流し込み…飲み込む。

芹雄:「――――っかぁー!!キクゥ〜〜〜!!えへらえへへへへ……」

ポール:「ちょっ?おい!大丈夫か!?」

リーナ:「…あら?道具袋に入れておいた超強力覚醒薬が無くなってますねぇ。」

ポール:「そうか…芹雄、可哀相に…」

玲奈:「…これで芹雄も私達のドレイね…」

芹雄「…なわけねーだろ!」

 ……談笑。そして、いよいよ別れの時。その前に…

芹雄:「…そうだ。レナス何処に居るか知らねーか?」

玲奈:「レナス?なんでまた…」

芹雄:「ああ、一応別れの挨拶しておこうと思って。」

玲奈:「成る程ね。貴方に会う前は酒場で見たけど、今はどうしてるか…」

芹雄:「そうか…有難う。じゃあ、今度こそ行くよ。元気でな。」

玲奈:「うん…あ…あの、また…

 芹雄はふ…と玲奈に笑顔を向け、その場を後にした。
その後、芹雄は酒場に向かった。しかしその途中偶然にもレナスに会う事が出来た。

レナス:「あっれぇ〜?芹雄さん。どうしたのこんな所で。」

芹雄:「…ようレナス。実は…」

レナス「今日帰るんでしょ?ばいばい。」

芹雄:「………つ、冷てぇ…」

レナス:「冗談だよ。で、何?別れの挨拶?」

芹雄:「あ、あぁ…そうだ。っていうか、なんで今日帰る事知ってんだ?」

レナス:「え〜?私から言わせるの〜?判ってるく・せ・に!ある女の人から聞いたんだよ〜ん!この〜、女泣かせめ〜!」

芹雄:「な!?……ななな何を言うのかね?チミは…そそそんな事…………ん?」

 ふと気付く。この事を話したのは数えるくらいしか居ない…その上、女性というは………

芹雄:「……ミルさん、もしくは玲奈か。」

レナス「ちぇ…気付いちゃったか…」

芹雄:「はいそこー、悔しがらない!」

 …と、軽い(?)冗談を交わす。二人は互いに笑いあった。

愛蓮:「あの…私達も居るんですけど…」

ディオバーグ:「オレとマシュダハムも忘れんなよ。」

 ≪ビッ!≫と自分の方向に親指を立てるディオバーグ。後ろで黙って頷く男B…どうやらマシュダハムという名らしい。

芹雄:「あぁ、愛蓮さん。別に気付いてなかった訳じゃないですよ。」

ディオバーグ:「………」

マシュダハム:「まぁ、こういう役回りだから。気にするな。」

 無視された男二人は離れた所で励ましあっていた。
一方、本題に入る芹雄…

芹雄:「今まで…世話になったな。」

レナス:「こちらこそ向こうの世界の話が聞けて楽しかったよ。」

愛蓮:「それでは芹雄さん…またお会いしましょうね。」

芹雄:「呼んでくれたらいつでも来ちゃいますです!はい!」

愛蓮:「……いえ、当分来なくていいです。」

芹雄:「ぐはッ!そういう事言いますか!?…はぁ…」

レナス:「何やってるんだか……それじゃ、また機会があればこちらからも行かせてもらうよ。」

芹雄:「お?レナスが俺の世界に来るのか?それは楽しみだな……」

レナス:「ま、いつになるかは判らないけどね………」

芹雄:「そうだな。まずは目の前の敵を倒してから改めて検討してくれ。」

レナス:「わかった。それじゃあまたね。」

芹雄:「あぁ………いや、ここで帰ろうと思ったが、帰る前にまだ一つやり残している事がある。」

レナス:「え?…あ!わかった。こっちの世界の女の子を集めてハーレム作ってウハウハとか?」

芹雄:「がーはっはっは!世界の美女は俺様の物だー!!――って……ち、違ッ!だいたいレナスの所為で結局一人も仲間になってくれなかったっつーの!」

レナス:「え〜?わたしのせいじゃないと思うけどなぁ?あの名誉ある称号を広めてあげたのに…

芹雄:「それが余計だっつーの!……まぁいい。そんな事より!俺のやり残した事ってのはレナス…お前と手合わせしてみる事だ。」

レナス:「……わたしと?」

芹雄:「お前の事を俺の世界で聞いて以来、一度手合わせしてみたかったのもあるし……」

レナス:「『あるし』?」

芹雄:「お前の練習相手が務まる奴はそういないだろ?自分の世界に帰る前の餞別代わりに相手してやるよ。」

レナス:「それは面白いね。じゃあ早速やってみようか。」

 話が終るとすぐに訓練所に向かった。
後ろで男二人が何か言っていた様だが、聞かなかった事にした
……そして訓練所に着いた。芹雄は既に1回来てるので別に驚かなかったんだが……

愛蓮:「あっ!?壁が破壊されてます!!一体誰がこんな事を…」

芹雄:「…………」

レナス:「本当だ! ねぇ芹雄さん…って、どうしたの…?なんか顔色が悪いよ…変な汗かいてるし…」

芹雄:「……なんでも無い…気にしないでくれ…」

 さすがに、「さっき俺が壊した。」とは言いづらい…レナスにとってはここも自分の家の一部だろうから…
そういえば玲奈達マスターはもう居ないようだ…また会うと厄介だったので良かったが。
レナスの仲間三人は、訓練中の冒険者達に話しかけ、訓練所から出るように頼んでるようだ。
さっきも出るように言われた冒険者も居るようで、怒る者も居たが、レナスの顔を見た瞬間、逃げるようにこの場を去った
芹雄は背中しか見えなかったのでどんな表情をしてるか判らなかったが、殺気だけは感じることが出来た
そして、訓練所には誰も居なくなり、いよいよ手合わせが始まる……

芹雄:「…………うっし。」

ディオバーグ:「準備はいいか?それでは――」

芹雄:(チッ、なんだコイツは…うるせぇなぁ…)「待て。」

ディオバーグ:「――ん?どうかしたか?」

芹雄:(あぁ!いちいち訊き返すんじゃねぇ!)「この勝負に勝ち負けはない…あんたは引っ込んでいてくれ。」

ディオバーグ:「な!」

芹雄:「さぁ。レナス…始めようか。」

 ≪ザ…≫
 今にも飛び出さん、とばかりの芹雄とレナス。そこに…

ディオバーグ:「……ちょっと待てよ……」

芹雄:「…あ"?」

 ディオバーグが横槍を入れた。ブチギレ寸前の芹雄。

ディオバーグ:「手前ェ…いい加減にしろよ!?どれだけ俺らを虚仮にすれば気が済むんだ!?」

芹雄:「お前が死ぬまで…いや、永遠かな?」

ディオバーグ:「!! ……レナ、代われ!先に俺が戦る!」

レナス:「ちょっと…ディオバーグさん!?」

愛蓮:「ディオバーグ!止めなさい!」

ディオバーグ:「まぁ見てなって…俺だってやれる事を証明してやるよ。コイツを倒してな!」

≪バッ!≫
 そう言うや否や、クレイモアを振り被って一直線に芹雄に向かってくるディオバーグ。

芹雄:「……無知な愚か者には一度痛い目に遭ってもらわなければな。」

≪チャキン…≫

ディオバーグ:「!? 手前…何のつもりだ!?」

芹雄:「ん?…あぁ、悪いな。生憎とこれ以外に弱い武器を持ってないんだ。」

 芹雄は降魔の利剣を納めていた…つまりは素手である。さすがにここまで馬鹿にされるとは思ってなかったのだろう。とうとうキレた。

ディオバーグ:「ふざけるな!いいから武器持ちやがれ!」

芹雄:「ふぅ…仕方ないな…………ん?丁度いい。こいつを借りる事にしよう。」

 一通り、辺りを見回した芹雄が見付けた物…この訓練所の訓練用の常備品『ナックル』だった。装着し、2・3度素振りをする。。

≪ギュッ…シッ、ピッ!シュッ!≫
芹雄:「よし…これでいいだろう。武器を持たせたこと…後悔しても知らんぞ…」

ディオバーグ:「ぶっ殺す!」

 剣を振り被り、芹雄に向か…おうとした、次の瞬間。芹雄は、目の前に、居た。
≪シュ、ドッ!ガツッ!≫

ディオバーグ:「!! がッ!?ぶっ!……!?…う、おっ!?」
≪ガシッ!ぐいっ…≫

 ディオバーグは一発顔面にジャブを受けた後、顔面を捉まれ、後方に押される。あまりの力に抗う事が出来ず、倒れそうになった。思わず倒れない為、足を退き、堪えようとするが…

≪ガッ!パシッ!≫

ディオバーグ:「く………あ!?――――ぐぁ!」
≪ズガッ!≫

芹雄は自分の足をディオバーグの足に掛け、退け無いようにしていた。それにより上体がさらに後方に下がったところで…足を払われ、一気に頭を押される。
その結果、見事に後頭部を地面に強打した。そして、気絶。

レナス:「あ〜あ…」

愛蓮:「……一瞬で…」

マシュダハム:「…………やらなくてよかった。」

芹雄:「痴れ者が…身の程を知るがいい。」

≪ガシッ、ぐい…≫

 芹雄は気絶したディオバーグの襟を掴んで持ち上げた。

愛蓮:「!芹雄さん!もういいでしょう!」

レナス:「大丈夫だよ、愛蓮さん。動けない人を場外に出すだけだから。」

 芹雄はディオバーグを愛蓮の前まで持ってくると「治療してやってくれ」と頼んで、今度はナックルを元の場所に戻した。
そして、再び剣を抜き試合場の中に入る。

芹雄:「さぁレナス、今度こそ始めようか。」

レナス:「…何の問題もなさそうだね…」

 レナスも武装して試合場に入り、芹雄と対峙する。

レナス:「1つ訊いていいかな?」

芹雄:「なんだ?」

レナス:「さっきの戦い…何でナックルを選んだの?他にも剣とか槍とか色々あったでしょ?」

芹雄:「…そんな事か。あれは攻撃速度と回数の関係だ。あれは威力こそ低いが、物凄い攻撃速度を誇る。」

レナス:「成る程…だからディオバーグさんが攻撃する前に終らせる為にあれを選んだと…」

芹雄:「そういう事。……もういいかな?」

レナス:「うん。いいよ。」

ディオバーグ:「う…うぅ………ん?」

愛蓮:「…あ!…大丈夫?ディオバーグ。」

芹雄:「…チっ。いらん観客が増えたか…」

ディオバーグ:「お、俺は………!そうだ勝負は!?」

マシュダハム:「…………聞きたいか?」

ディオバーグ:「いや…いい。そうか…くそッ…くっそォ―――!!」

芹雄:(喧しい!)

愛蓮:「ディオバーグ…気にするな、とは言わないけど…彼の強さは次元が違う物だわ。勝てる方がおかしいと私は思うの。」

芹雄:(別次元扱いかよ…まぁ、そうかもしれないけどさ。)

レナス:「芹雄さん?」

芹雄:「ん?……ああ、すまん。じゃあ、始めるぜ?」

レナス:「うんっ!」

≪ババッ!≫

 二人は同時に飛び出した。

レナス:「はっ!」

芹雄:「ぅぉ…っと、はッ!」
≪ガギッ、ガィンッ!≫

 いきなり速度を増したレナスは瞬時に芹雄の目前に現れ、振り被ったポセイドンハープーンで斬り掛って来た。
芹雄はそれを受け止め、右に流し、左から斬り返す。しかし、これは上手く反応され受けられる。

芹雄:(へぇ…やるもんだねぇ。)

≪ザザッ!≫
 二人は再び間合いを広げて対峙した。

ディオバーグ:「な!?今何があったんだ!?」

愛蓮:「戦士のあなたに判らないのに私に判る訳ないわ。」

レナス:「さすがだね!玲奈さんですら反応できなかったあれを平気で受け止めるなんて!」

芹雄:「お前こそ本当に病み上がりか?油断してたらバッサリ行かれる所だったぞ!」

≪スス…≫
 摺足で徐々に間合いを詰める両者。あまりに静かな動きの為、端から見れば静止してるようにも見えるだろう。
≪バ、ビュンッ!ガギッ!≫
 先に動いたのは芹雄だった。右肩からの担ぎ上段斬り。レナスは剣でこれを受ける。
≪ギリギリ……≫
 芹雄の限界を超えた力に押され、表情が一瞬曇るレナス。だが、少し目を瞑り、カッ!と見開くと同時に、
≪ギィンッ!≫
 芹雄の剣を弾く。意表を突かれ、少し体制を崩す芹雄。

芹雄:「おっ…?」

レナス:「『フレイムタロット』!」

≪ドシュ…ボゥワァッ!≫

 芹雄の居た場所に火柱が上がる。しかし、すぐに体制を立て直し、反応した芹雄はこれを上手く回避。最小限にダメージを減らす。

芹雄:「そんなトロい魔法当たるかよ!………はッ!」

≪ビュッ、シッ、ギィン!≫
レナス:「くっ!魔法は当たらないか!」

 寸での所で防御が間に合ったが、受けるので精一杯という感じだ。
魔法を使う…それはアイテムを使うのと同等で、武器速度の影響を受けない。逆にいいのでは?と思うかもしれないが、 大抵の場合は武器の方が行動が早いので、アイテム・魔法を使うと隙が出来てしまう。本人の敏捷が高いのなら問題は無いのだが…

芹雄:「こう見えても俺は達人なんだ。下手な攻撃は……逆効果だッ!」

≪シャッ!≫
レナス:「!?」

 台詞の後に、レナスの目前に一気に掛けより剣を構える芹雄。脇構え―――胴払いに出る。
≪バヒュッ……≫
 受けが間に合わないことを読んだレナスはバックステップで攻撃をかわす。

レナス:「あ、危なかった――!」

 レナスは汗――恐らく冷汗であろう――をかいていて、手の甲でそれを拭う。しかし、その顔は少し楽しそうだった。

芹雄:(へぇ…)「どうした、お前の力はそんなものか!?」

レナス:「まだまだ!これから見せてあげるよ!」

愛蓮:「これが芹雄さんの……そしてレナの力なのね……」

 脇で見ているレナスの仲間3人が何やら感想を言っているようだ。愛蓮のは聞こえた(聞いてた)が…
おまけ男sのはどうでも良かったので聞かなかった事にした

 ―――その後、何度か剣を交え、弾き合う。その一回一回にレナスは楽しそうに剣を振るう。

芹雄:(そこまで楽しむか…よかろう。)「では、ちょっといい物を見せてやろう。」

レナス:「いい物?」

芹雄:「レナスはマスターに成りたてで、宝珠の使い方を知らないだろう。それを教えてやる。」

レナス「いいよ、別に。その内自分で使うから。」

芹雄:「……………」
≪ゴゴゴゴゴゴゴ………≫

レナス:「ヒッ!?す、スイマセン!是非、御教授願います!」
≪ぺこちん≫
 何も言わない芹雄だったが、全身から物凄い殺気が出てるのを感じたレナスは思わず承諾し、頭を下げる。


芹雄は懐から数珠状の宝珠を取り出し、黄色い珠を掲げた。

芹雄:「我は魔術を極し者哉…其の宝珠、主とせし者に流れ往く風の力を与えん!」

≪ポワァァ…≫
 瞬間、黄色い珠から紫色の光が放たれ、芹雄を覆い…光は芹雄の内に収まる。

レナス:「……?何か光が出ただけじゃない…もうこんなのどうでもいいから早くさっきの続き、しようよ。」

芹雄:「ふふ…まぁ無理も無いか。ま、別に俺は手合わせを止めた訳じゃない。責めて来てもいいんだぞ?」

レナス:「あっそ。なら…遠慮無くッ!」

 そういい、レナスが攻撃を開始する。しかし、芹雄は先程以上に鋭い動きでそれを尽く捌く…そして、更に芹雄は…

芹雄:「我は魔術を極し者哉…其の宝珠、主とせし者に混沌の力を与えん!」

≪ポワァァ…≫
 今度は赤い光が放たれ、芹雄に吸収される。

レナス:「…一体何をしてるの?なんで攻めて来ないの?」

芹雄:「今に判るさ。これは準備だからな。でも少しは効果が出てるんだけどな?」

≪ヒュ、ヒュッ≫

レナス:「…そういえばさっきから攻撃が当たり難い…まさか…敏捷が上がってる!?」

芹雄:「ご名答。それはウインドクリスタルの効果だな。さっきの赤い光は…これで証明できるッ!」

≪ガシィッ!≫

レナス:「ぁうっ!?」

≪……ドシャ…≫
 防御は間に合ったものの、あまりのパワーに少し吹っ飛ばされるレナス。

レナス:「…力が…上がってる!?」

芹雄:「そう、ハイパワータロットの効果だ。お次はコレだ。」

 再び黄色い宝珠を掲げ…詠唱を始める。

芹雄:「我は魔術を極し者哉…其の宝珠、主とせし者の命に答え、彼者の魔力を我に与えん!」

≪ポワ、パァァ…≫

 黄色い光が放たれる。今度はレナスにも照らされる…

≪ズキッ…≫

レナス:「!?…ぅくッ…こ、これは…『搾取の勾玉』!?」

芹雄:「そう!これが『知の宝珠』の力だ。戦闘を有利にするあらゆる魔法が詰められているのである!」

 本来はランダムで発動するんですが…因みに、どの魔法が発動しても20MPかかります。
 今度は青の宝珠に変え…使う前に芹雄が言った。

芹雄:「『力の宝珠』の力だが…これの説明は要るか?」

レナス:「ううん。要らない。知ってるから。」

芹雄:「そうか。なら『忍の宝珠』の力だ!」

 今度は緑の宝珠に変え…使う前に芹雄が言った。

芹雄:「御仲間さん達、武器構えて防御しててくれ。」

愛蓮:「え…えっ?どうして…?」

 と、言いながらもちゃんと魂滅槍を構えて防御するいい人愛蓮さん。
3人とも同じような反応をしていたようだが、男s2人は…以下略

芹雄:「しかと見よ。これが『忍の宝珠』の真の力だ!」

≪ヴン…≫≪ヴン!≫≪ヴン!≫≪ヴン!≫≪ブン!≫

4人:『!!』

 一度姿を消し…次現れた時には全員の目前に居て、既に攻撃仕掛かっていた。

≪ガィン!…キン、カィン、ガッ!…ドドドスッ…≫
 レナスは攻撃を受け止めるが、仲間の三人は武器を弾かれ、落した。

マシュダハム:「な!?……見えなかった…」

愛蓮:「4人同時に攻撃出来るなんて…痛っ、それでもこの威力…武器防御してなかったら死んでたわね…」

ディオバーグ:「ぐ、ぐおおおぉぉぉぉ〜〜〜〜………」

ディオバーグだけは手加減無しに攻撃した

芹雄:「『忍の宝珠』は、複数相手の時にのみ真価を発揮する。覚えておくといい。」

レナス:「なるほど。判ったよ。」

芹雄:「ついでに応用も教えておこう…威力のある武器…銃などがそうだな。そういうのは基本的に、速度が遅い。」

レナス:「うん。そうだね。」

芹雄:「武器として攻撃に使うと、攻撃回数の減少を招く結果になり、結局はそこそこ威力があり、速度の早い武器の方が有利…ということになる。」

レナス:「うん。」

芹雄:「そこで、この『武の宝珠』か『忍の宝珠』を使うのだ。」

レナス:「?」

芹雄:「宝珠は基本的に道具なので速度も何も無い。只、使用者の敏捷に影響されるだけ。体力は消耗するが、威力の高い武器でも素早い攻撃が出来る。」

レナス:「へぇ〜、そうなんだ。……でもさ、体力消耗するんでしょ?あんまり使用頻度は高くないんじゃ…」

芹雄:「だな。まぁ言ってみただけだ。するかどうかはお前次第、って事で。」

レナス:「はいはい…じゃぁ、続き…しますか!?」

芹雄:「応ッ!」

レナス:「はあああッ!!」

≪ギィン!ガィン!………≫
 二人は再び剣を交え始めた。
…結構な時間が経ったであろうか。剣と剣の捌き合いで、お互い殆ど無傷である。ただ休む間もなく攻撃を繰り返しているので体力を消耗している、といった感じである。
それでも、レナスは楽しそうにしていた。余程手応えの有る相手に飢えていたのであろう…このまま気の済むまで相手してやってもよかった。が、しかし。

ポセ[芹雄、そろそろ止めてやってくれ。]

芹雄:(そうだな…そろそろ限界か。)

 レナスの使う武器、ポセイドンハープーンが芹雄の頭の中に話し掛けて来た。
レナスは熱中し過ぎて我を忘れているのか、攻撃や動作が遅くなって行ってる事に気が付いてない。我武者羅に攻撃を続けて来ている。
これはこれで無駄な力が抜けて攻撃が鋭く、いい動きになっているが、疲労が溜まってきている。
これ以上続けていると、また倒れる結果に成りかねない…ので。

レナス:「てやぁッ!!…あっ…っく!――?」

≪ヒュッ、ガィン!ザッ、ヵチン…≫
 芹雄はレナスの攻撃を態と受け止め、押す様にして弾き、自分も間合いを開け、納刀した。

芹雄:「悪いが……今回の手合わせはここまでだ。」

レナス:「ハァ…ハッ…っく、どうしたの…?ハァ…ハァ…まだ勝負は…ついてないよ…フゥ…」

 まだ気付いてないようだが、知らせずに恩恵札で体力を回復させる。

芹雄:「レナス、今のお前の目的は俺との勝負をつける事ではない筈だ。」

レナス:「だからってこんな中途半端な状態で終われないよ!」

芹雄:「レナス、お前は強い。だからこそ俺はここで勝負を止めなきゃいけないんだ。」

レナス:「……何で?」

芹雄:「これ以上やって勝負をつけるなら……お前の命を保証できない。」

レナス:「!」

 芹雄は間を空けた時にレナスを「本気で殺しに掛かる。」という意味を込めて睨み付けた。

芹雄:「これ以上の勝負は命に関わる。それはレナスにも判ってるんだろ?」

レナス:「……判った。今回の勝負は預けておく。」

芹雄:(…まぁ、もともと手合わせだったしな。倒れられても、死なれても面倒な事になる…って事は伝わったか) 「さて…もう用は済んだ。これで帰る事にする。また機会があれば会う事もあるだろう。次に会った時を楽しみにしてるぞ!」

 レナス達に背を向け、立ち去る芹雄。

レナス:「芹雄さん!」

芹雄:(フ…名残惜しんで呼び止めるとは…可愛い所あるじゃないか。)「ん?どうした?」

 最高の爽やか笑顔で振り返る。もう、歯が光るのではないか?と言わせんばかりに。

レナス:「リンクゲートどこにあるか知りたいから場所教えて!。」

≪ズコー!!≫

芹雄:「な、何だそりゃ!普通そこは『ありがとう!』とか『実はあなたの事好きだったの!だからわたしを好きにして!』とか言う場面だろ!?」

ポセ[ちょっ…これ、何言ってんの?]

レナス:「前半はともかく後半は訳判んないっつーの!大体臆病風に吹かれて途中で逃げ出した芹雄さんに何で感謝しないといけないんだよ!」

 全然伝わってなかった。

ポセ[……始まったか…]

芹雄:「誰がだ!折角こちらがあんまりいぢめちゃ可哀想だと思って止めてやったのに!」

レナス:「誰をいじめるだって!?その思い上がりをナンパ師の称号ごと吹き飛ばしてあげるよ!」

芹雄:「俺の称号はナンパ師じゃない!」

レナス:「じゃあ【女子(おなご)専用なまはげ】?」

芹雄:「若いオナゴはいね〜が〜!………って、違ッ!?断じて違ッ!」

レナス:「違うの?」

芹雄:「違っうぞ…多分…

レナス:「自信なさそうだね?」

芹雄:「ぅ……そ、そんな事はどうでもいい!それよりもリンクゲートの場所を知りたいんだろ?教えてやるからついてこいよ。」

レナス:「変な所に連れてかないでね?」

芹雄:「連れて行くか!つーか、そんな場所知らんわ!」

レナス:「本当に?」

芹雄:「黙ってついて来い。」

レナス:(ちぇっ)「は〜い。」

 外に出て、暫く歩き辿り着いた先は廃れた寺院の大きな仏像の前。

レナス:「こんな所に寺院があるとは知らなかっ―――つっ!?」

≪ガクッ…≫
 急にレナスが頭を抱え、地に膝をついた。

芹雄:「?…!おい、どうした!?レナス!」

レナス:「何だか……この場所に来た途端不思議な感覚が……」

芹雄:「何!?それって―――」

レナス:「ん?芹雄さん何か知っているの?」

芹雄:「念の為聞いておくけど…レナスは生まれも育ちもこの世界だよな?」

レナス:「はぁ?何言ってんの?当り前でしょ。異世界があること自体、芹雄さんが来るまで信じられなかったんだから。」

芹雄:「と言う事は……あ。い、いや…そんな筈ある訳ないな。俺の気の所為だ。何でもないから気にするな。まっはっは………そうか…

レナス:「?」

芹雄:「それよりも……ここの地下にリンクゲートがある。」

 仏像の背後に回りこみ、隠し扉を開ける。

レナス:「隠し通路……!」

芹雄:「そういう事だ。ここから地下に続いている。早速行くぞ。」

 地下へと続く坂道…暫く進むと芹雄も頭痛を感じ始める。

芹雄:「………チッ!相変わらず来るな…」

レナス:「くっ…!」

 そして、リンクゲートの前に辿り着いた。芹雄は歩みを止める事無く、中に入って行く。

レナス:「これが……リンクゲート。」

芹雄:「ああ。そしてここは俺の世界に通じている……それじゃあな。また会えるといいな。」

レナス:「あ…うん。芹雄さんのおかげで助かったよ。ありがとう!」

芹雄:「う〜ん…やっぱり個人的には『ありがとう!』よりも『実はあなたの事が好きだったの!』って方が―――」

レナス:(ー_ー#)「さっさと自分の世界に帰りなよ!」

≪ドゴス!≫

芹雄:「!?ぉわ!押すな――――!……って…相変わらずな別れか方だったな…まぁ、しんみりするよりかはいいか。さ、帰るとするか。」

 光りのトンネルを進む。元の世界『バイラーダス』に向けて。

芹雄:(さって、と〜…向こうに着いたら訓練所に行って藍玲達に会いに行くか!……藍玲達に……仲間に…)「あ!」

 何かが芹雄の脳裏を過った。それは芹雄がこっちに来る時の言い訳だ。

―――『探し物をしに行く』―――

そう言ってアクエルドに向かったのだ。

芹雄:(ヤバイ!忘れてた!あ〜…でももう結構時間経ってるから探しに行く余裕無いし…かと言って『無かったワ☆』なんて冗談…多分通じない…)

 『アウアウ』と頭をガシガシと掻きながら考える。と、1つの考えに辿り着いた。

芹雄:(もう一回アクエルドに行ってアクターさんになんか貰おう…恩着せかましいが、非常事態だ。仕方ない…)

 振り返り、ダッシュでアクエルドに向かう。あまり進んでなかったのですぐに出口が見えた。先にはまだレナスが居た。

芹雄:「丁度いい!レナスが何か持ってるかもしれん!」

≪バヒュッ!≫

レナス:「な!?芹雄さん!…何で戻って来るかな…?」

芹雄:「…いや…ちょっと…忘れてた事が…あって…」

レナス:「何?」

芹雄「お前が欲しい!」

レナス「あ、アホかぁ!!」

≪ぱこーん!≫

芹雄:「シワバッ!?」

レナス:「わざわざ戻って来て言うだけあって、面白い冗談だね…」

≪ポキポキッ…ポキポキポキッ!≫
≪ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………≫

芹雄:「ま、待て!違う!スマン!今のは言葉が足りなかった!」

 ………そして、訳を話した。

レナス:「……つまり、向こうの仲間にはある物を探す旅に出たと言った訳なんだ?」

芹雄:「そういう事だ。これだけ長期間旅に出てたのに収穫無し、って訳にも行かないだろ…?」

レナス:「ま…そうだね。それでわたしの持ってる物で何かが欲しいと言う訳ね?」

芹雄:「まぁ、アクターさんに頼んでもいいんだが手っ取り早く。何かいい物持ってないか?」

レナス:「うーん…今はちょっと出かけるつもりで来てたから大した物は持ってないなぁ…」

芹雄:「頼む!何でもいいから…」

レナス:「はぁ…芹雄さんには一つ借りがあるからね。頼まれてあげるよ。」

芹雄:「おぉ!それは助かる!…それで、何をくれるんだ?」

レナス:「それじゃ、これをあげるよ。」

 そう言って、首に掛けていた紐で通された勾玉を服の中から取り出し、首から外し、芹雄に手渡す。

芹雄:「これは…ネックレス?……ん…!?こ、これは!?お、おい!いいのか!?」

レナス:「ん?どうしたの?」

芹雄「温もりが残っててあたたかい…この勾玉は恐らく胸の谷間で…あぁぁああぁぁぁぁあぁぁ〜…」

レナス:「ぅげ!」

芹雄「スリスリスリ…はぁ〜…くんかくんかくんかんくんか……」

レナス:「わぁ!止めて――――!!」

芹雄:「なんてな。」

レナス:「もぅ…そういう冗談は止めてよね…」

芹雄:(結構本気だったけど。)「でもいいのか?こんな貴重な物貰って。」

レナス:「貴重?まぁ、確かに綺麗だしそれなら皆納得してくれるんじゃないかな?」

芹雄:「しかしこれは、『ヤサカ―――』」

レナス:「ああ!その先は言わなくていいよ。上げたくなくなるから。ま、それでポールさんの命が助かったと思えば安い物だよ。とっておいて。」

芹雄:「……すまない。大切にする。」

レナス:「ま、わたしには忍の宝珠がネックレスとして既にあるからね。わたしのお古で申し訳ないけどそれで我慢してよ。」

芹雄:「ああ…構わない。サンキュ。それじゃあな。」

レナス:「うん。今度こそまたね。」

 そして、芹雄はバイラーダスを目指し、リンクゲートを通過して行った。


 遂に異世界での物語は終りを告げた……のだろうか?
戻った芹雄は仲間と一緒にあの企画を実行するのだろうかッ!?
つー訳で以下次号ッッ!!


第二四章

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